A035-歴史の旅・真実とロマンをもとめて

トランプ氏の次期大統領で、琉球王国(沖縄問題)の再熱か。まさに「歴史は眠らない」

 穂高健一著「歴史は眠らない」の出版と時同じくして、トランプ氏が次期アメリカ大統領に決まった。
 返り咲いたトランプ政権の再来で、この先はなにが起きるかわからない。世界じゅうが戦々恐々とし、トランプ氏の言動が最大の関心事になっている。

 アメリカ大統領の歴代の特徴として「正義」が大好きだ。戦争にしろ、平和にしろ、この正義という大義が大統領の言動の前面にでてくる。
 トランプ氏から、「琉球国の復古問題は未解決だ」と150年来の問題をゆり起こす、発言が飛びだすかもしれない、と私はおもった。そうなれば、まさに「歴史は眠らない」となる。

琉球王国.jpg 
  写真(ネットより)=琉球王国のシンボル「守礼門」

・ 18代米大統領グラントは明治初期に琉球国問題で調停の労をとった。

・ フランクリン・ルーズベルトは太平洋戦争の参入から沖縄戦へ導いた。

・ マッカーサー元帥は戦中・戦後の日本に大きくかかわった。

・ 第37代ニクソンは沖縄返還協定で、有事の核兵器持ち込みの密約をしていた。

・ 次期大統領トランプは、なにが予測できるだろうか。
 
              *  

 ある日、突如として、トランプ政権から、国際条約の「ウィーン条約五十一条」による琉球国の独立をいいだす。明治政府による「琉球処分」は国際法違反である。この条約は150年経とうとも、時効がないのだ。
「琉球人による琉球国の復興、そして琉球政府をつくる」
 そんな歴史問題を持ちだされると、日本政府や国民は予測しておらず、慌てふためく。これでは「危険」な状態である。

 危機と危険は違う。
「危険」とはなにも考えず、たとえば日本政府は自分の都合よく考えて、日米の防衛協力関係からして「沖縄から米軍が手をひく。絶対にありえない」と盲目的に信じて、まったく備えがない。それが「危険」な楽観論である。

 トランプ大統領が、アメリカ国力最優先で、海外駐留コストの大幅削減から、沖縄米軍基地を撤兵する。「政治の世界に絶対はない」という予測はないのだ。
 近いところでは1992年にフィリピンが米軍との地域協定を破棄し、米軍が全面撤退した。その事例すらもある。

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「琉球国は独立させて、琉球の将来は琉球人みずから決めるべきだ」
 三期目のない剛腕なトランプ大統領が「正義で名をのこす」と日本に強烈に迫ってくることも予測もできる。

 おおむね歴代アメリカ大統領のブレーンは、世界じゅうの各国の盲点や強さを研究する。今回は、トランプ氏の側近が、日本研究者から、明治維新政府がまだ未熟なころ独立国・琉球を軍事圧力で日本が強奪し、沖縄県に組み入れている。この「琉球処分」は国際慣習法の違反であり、時効がないから、現代でも明治までさかのぼり、解消できる。その問題をとりあげて大統領に進言する。
 そしてトランプ大統領の「正義の発言」になることも予測できる。

 かたや、日本の政治家や官僚は、学生時代に「琉球処分」という用語しか習っていないし、琉球問題の本質がわかっていない。ただ慌てふためくだけである。
   
 危険に対して「危機」とはなにか。それは過去のできごとから歴史を学び、今後(未来)において想定されるいかなる変化にも対応も能力を備えることである。ここでいう危機とは、琉球問題の真の歴史をしっかり学ぶことである。
 
ペリー琉球.jpg この琉球問題の原点は、1854年にペリー提督が琉球王朝の首里城(イラスト)で、「琉米修好条約」を締結し、アメリカの議会でそれを批准した。琉球国を国家承認したのである。他に、フランスも、オランダも、琉球国を独立国として承認したのだ。

 三カ国が琉球を「国家承認」しているのに、明治維新後の未熟な政府が、米仏蘭との話し合いもせず、「琉球処分」という軍事威圧で、国際慣習法に違反して奪いとったことである。
 この琉球処分が日米中(清)関係で国際問題になり、日清戦争、日中戦争、太平洋戦争、ポツダム宣言まで、直接・間接にずっと尾を引いてきた。
 
 18代米大統領グラントが、清国を訪問したおり、李鴻章(りこうしょう)に要請されて日清間の調停に乗りだした。まずグラント元大統領は日本側の明治天皇・伊藤博文・井上馨と面談したうえで、1880年には琉球諸島の二分割案を提案した。

ーー沖縄本島周辺は日本として、宮古列島、八重山列島は清に渡す。その代償として中国内で欧米なみの通商権を得る。(分島・増約案)。
 
 日本と清国の間で、この分割案が合意に達した。翌1881年には、日清の代表者が石垣島で調印するまでに至った。
 ところが清国の国内からは、グラントの分割ではなく、「日本からの琉球国の完全復興」という世論が盛りあがった。
 調停寸前で、日清間であらためて琉球国の独立問題が協議された。決裂する。歴史がすすみ日清戦争の火種のひとつになってしまった。

 日清戦争で勝利した日本は、伊藤博文・陸奥宗光と李鴻章による下関条約が結ばれた。日本は台湾を植民地にし、遼東半島を割拠し、さらに厖大な戦争賠償金を得だ。
 しかしながら、清国の李鴻章は琉球国問題にたいして妥協せず、下関条約にこの問題は組み込まれず、未解決のままの状態となった。
 
 ここらの歴史は、現代の日本国民は知らないのだから、
「明治天皇がいちどは宮古列島、八重山列島を清国に渡すと承諾した」
 えっ、それは教わっていないぞ。おどろきだというだろう。現政府や関係者が隠しても、歴史的事実は消えないのだ。

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 ところで、アメリカ合衆国と中国は歴史的にはとても仲が良いのだ。ほとんどの日本人にはその認識が欠如している。

 日清戦争のあと「三国干渉」が起こった。それを契機にして欧州列強および日本が広大な中国領を割拠する競争に狂乱した。アメリカはそれをしなかった。

 日露戦争のあとから日米の仲が悪くなり、やがて日中戦争が勃発した。中国軍が貧弱で日本軍の拡大が目覚ましかった。中国は南京が陥落したあと首都を重慶に移した。日本軍は夜間の空爆のみで、陸上軍がさし向けられなかった。
 アメリカのルーズベルトは軍事力のない中国政府に加担し、武器、航空機、弾薬を次づきと支援しつづけた。さらに有能な軍事指導者を送り込み、近代的な軍隊組織づくりが為された。
 こうなると、短期決戦のつもりだった日本は五年におよんでも、日中戦争の決着がつけられず見通しも及ばず、中国と米軍と両面で戦う太平洋戦争に突入した。

カイロ会談.jpeg 太平洋戦争で日本劣勢となると、ルーズベルト大統領の提唱でカイロ会談が開催された。(写真の左から 蒋介石、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相)。三国において、「琉球王朝」の日本の国家強奪は国際法違反である、と共通認識を確認した。

 アメリカ・ルーズベルトは「歴史の不正を糺(ただ)す」という正義感から、日本から武力をもって琉球を切り離す、と中国(蒋介石)に約束した。そのうえで、沖縄戦へと動いた。太平洋・陸海空軍の殆んど55万人の米将兵という、ぼう大な戦力を沖縄へむけたのだ。

 連合国はポツダム宣言(13箇条(その一つがカイロ宣言を含む=沖縄は日本領でない)を降伏条件として日本に突きつけた。
 日本は沖縄を手放すという条件を承知で、ポツダム宣言を受諾した。1945年9月2日に軍艦ミズリー号で、降伏に調印した。ここにおいて琉球(沖縄県)が完全に日本国領土ではなくなった。
 沖縄・首里に琉球政府ができた。日本の施政権は及ばないし、日本憲法の影響を受けにない。「琉球政府が独り立ちできるまで、アメリカが沖縄を統治する」と琉球(沖縄)に星条旗が掲げられたのだ。

 アメリカは、敗戦国の日本はいっとき国際連盟の常任理事国であったが国際連合には加盟させず、中国を戦勝国として国連の常任理事国に推薦したのだ。
 
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 共産主義を嫌う米国は冷戦下にあっても、ニクソン大統領が、日本の頭越しに米中国交回復を成した。
 こうして長い歴史をみても、米中は相性が良く、仲が良いのだ。

 トランプ次期政権が米中の経済問題の障壁を取りのぞけば、政治的には米中の蜜月時代に突入するかもしれない。「昨日の敵が今日の友」となる。そして、トランプ氏が日中の障害となってきた「琉球処分」を解消することがアジアの安定につながる、と主張する。
 
「アメリカ政府が佐藤栄作元首相との間で、琉球政府の立ち合いもなく、1972(昭和47年)に沖縄を日本に渡したのは合法性がない。当時のアメリカ政府の判断はまちがっていた。琉球国にもどすのが国際法に沿うものだ」
 トランプ大統領ならば、大胆に、自国の過去の歴史修正も厭(いと)わないかもしれない。21世紀の琉球新政府は、基地経済から脱却し、欧米およびアジア各地から優良企業を各諸島に誘致し、みずから国家運営するべきだ。その方が豊かになれる。
 600年も戦争なく自由貿易港だった歴史ある琉球国ならば、こんごの自国防衛においても、琉球人の判断によればよい。それがむしろアジアの平和になる、とトランプ氏ならば主張してくるだろう。

 私たちは学校教育で、正しい琉球処分の知識を教わっていない。ここはいちど危機管理から「歴史は眠らない」を読まれた方がよいとおもう。

【関連情報】
 
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著者:穂高健一

出版社: 未知谷(みちたに)

定価 : 2500円 + 税

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