A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

奥の深いミツバチ  廣川 登志男

 昨年(令和五年)暮れに、岩手県の養蜂園からミツバチの巣箱120箱が千葉県館山市の養蜂園に、越冬のため運び込まれたとの記事があった。何気なく目についたのだが、ミツバチでも暖かい土地に引っ越すことに興味を覚え、好奇心に駆られた。

 冬場は、生物が活動するためのエネルギーが細る。落葉広葉樹は葉をおとすので光合成もできない。樹木でさえひっそりと佇む。冬をいかにやり過ごすかは、その種にとって大きな問題だ。
 昆虫のハチは今までどうして過ごしていたのだろう。以前、何気なく見つけた練馬区光が丘にある団地の記事「昆虫の冬越し」が面白くてメモに残してあった。

『バカたまご トカセ幼虫 チョウさなぎ ハチアリテントウ親で冬越し』。バッタ・カマキリは卵で冬眠。トンボ・カブトムシ・セミは幼虫で。チョウはさなぎで、ハチ・アリ・テントウムシは成虫(親)で冬越しとの説明が添えてある。
今回の記事では南の暖かい館山市まで、成虫が入った巣箱ごと遠路はるばる運ばれている。
 このやり方は、比較的近年に始まったようだ。従来の冬越しを調べてみると、河合養蜂園が提供しているインターネット上の「ミツバチ牧場」に載っていた。

ミツバチ.jpeg  一般的には『十二月の本格冬の到来期では、いよいよ巣内の温度が下がる。すると、ミツバチは全体が寒くならないように体を寄せ合い、峰球という球状のかたまりをつくり、体を温める。峰球の中心部は、自分たちの体内で発生させた熱で真冬でも暖かい。外側のハチは内側と交互に入れ替わりながら、中心部にいる大事な女王バチを寒さから守る』とあった。

 一匹の女王バチを守るために、全員で守り通すのだ。花も少ない寒い環境にあって、働き蜂は蜜を採取にいけない。春夏の期間に溜め込んだ密と花粉をエネルギー源にして生き延び熱を生むという。
 今年五月に、君津文化ホール近くにある、評判高い「はちみつ工房」を訪問した。『ハチミツとハチミツ酒ミードを「見て・聞いて・嗅いで・味わう」で、ハチミツとミードの美味しさを五感で楽しむ』を工房のコンセプトとしていた。無料参加できる工房見学ツアーもおこなっている。

 近くにいた、技術者らしき説明者に、「館山市には、東北の方から越冬のためにハチを運んでくると聞きましたが、どうなんですか?」と、尋ねた。すると、話は長かったが待ってましたとばかりに答えてくれる。
「東北の六十くらいの養蜂業者が、合わせて一万箱ほど千葉県に運んできてますね。この時期の巣箱ひとつには、だいたい二万匹は入っていますから、二億匹ほどが来ています。この辺りも含めた南総地域には半分の五千箱は来ていますよ」

「え、そうなんですか。そんなに来ていて食料なんかはどうしているんでしょうね?」
「結構、いろんな花が咲いていますから大丈夫ですし、温室栽培のイチゴなどの交配に、ハチを貸してほしいという要望も多いのですよ。この辺りはイチゴ狩りが有名で、その準備に入るんですね」
 なるほどと感じ入った。

 この工房ではいろいろな花の蜜を味見できる。当日は、ナノハナ、サクラ、アカシア、ソバなどのハチミツだった。そのなかでは『ソバ』の蜜が、アジも色も一番濃くて美味しかった。栄養価も高いという。

 疑問が浮かんだ。花の種類ごとの蜜が瓶詰めされている。ハチは、一定の花ばかりの蜜を吸い取ってくるのだろうか? 先ほどの説明者に聞いてみた。
「蜜がとれる種類の花が群生している場所を見つけたら、巣に戻ると8の字飛びをして、仲間にその場所を知らせるのですよ。こう見えても案外利口ですよ」
 なるほど、大昔からの経験がDNAに刷り込まれ、効率的な蜜の採集方法を会得してきたのだろう。


動物図鑑によると、ハチが出現したのは、恐竜と同じ2億年以上前。そして、地球上に花が広まり花粉を食料とするハチが登場。花の方も、これを受粉に利用すべく匂いのある蜜を花の中に造り出す。その蜜に誘われるハナバチが7千万年ほど前に出現した。これが、ミツバチの前身」とあった。

 ミツバチの越冬に興味を覚え、好奇心に駆られて色々調べると新たな事実に出会える。
 ローヤルゼリーの素となるプロポリスは日本人が発見した。ハチミツからできる酒・ミード。これは世界最古のお酒で、クレオパトラも愛飲したという。古代から中世ヨーロッパでは、新婚間もない頃にミードを飲む習慣があり、ハチミツの効能やハチの多産にあやかって、結婚後の一ヶ月間ミードを飲んだという。現在のハネムーン(蜜月)の語源だそうだ。
 
 ミツバチ一つとっても、奥深い新たな事実・情報に驚くとともに勉強になる。

                イラスト:Google フリーより  

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