A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

苺「あまおう」   武智 康子

 先日、世田谷の友人の家を訪問した帰りに、駅前のスーパーで「苺まつり」をしていたので、ちょっと覗いてみた。
 すると、10粒入りの苺の「あまおう」1パックが、468円という。普通は、スーパーでも600から800円位だ。デパートでは、1500円位はしている。私は、前日の売れ残りかと思った。
 しかし、よく見ると艶も良く蔕の緑も新鮮だったので、夕食のデザートにしようと2パック求めた。

 帰宅後、夕食の準備の折に、その苺を洗った。洗いながら私は、ちょっと首を傾げた。いつもの「あまおう」と何だか少し手の感触が違うのだ。固く感じる。

あまおう.jpeg「あまおう」は、今世紀の初め、福岡県の農業試験場で五年がかりで開発された、固くもなく柔らかすぎず、酸味と甘味のバランスが取れた、赤くて大きな苺である。名前も「あかい、まるい、おおきい、うまい」の頭文字四つを組み合わせて「あまおう」と名付けられた由縁でもある。原産地は、福岡県の八女市が中心の苺なのだ。

 私は、苺の女王とも言われるこの「あまおう」の安さに、あることが脳裡に浮かんだ。
 実は、この「あまおう」が開発されて世に出た時、私達夫婦は、夫の第二の人生としての福岡に居住していた。だから、そのニュースが大々的に報道されたことを覚えている。
 それは、この「あまおう」の品種登録は「福岡S6号」として既に登録されていたが、商標登録が申請はされていたものの確定される前に、既に、あるアジアの国に苗木が持ち出されていて、小粒ではあるが「あまおう」として逆輸入されて安く売られていたのだ。だから私は、「またか」と思ったのだ。

 私は、翌朝、北九州に住む友人で、当時、苺の品種改良に携わっていた山添さんに電話してみた。
 彼女によると「あの時は、苗木が持ち出されたことが痛手だったが、あれから20年が経ち、福岡農協に所属する多くの苺農家が作って来たので、少しばらつきが出てきて、本来ならジャム用になるのを店頭に並べているのかもしれない」と話してくれた。
 私は、そんなことをしていると「あまおう」のブランド力が落ちるのではないかと、心配になった。
 
 ただ、彼女は、続けて話してくれた。今「あまおう」の偽物が存在することを教えてくれたのだった。
 それは 「おまうあ JAかおふく 八女 日本」 として香港で売られているとのことだった。日本産の 「あまおう JAふくおか 八女」と誤認させる表現が使われているとのことだった。 
 私は、このことを聞いてびっくりした。持ち出された苗木が使われているかどうかは、解らないが、平仮名の4文字を二か所並べ替えるという手法には、開いた口がふさがらなかった。

 彼女自身は、既にリタイアしているが、私は、今回彼女から多くのことを学んだ。
 更に調べてみると、「あまおう」は、昨年10月で販売開始されてから二十年を迎え、そのうち18年間、連続で苺の単価日本一を維持してきたそうだ。それだけブランド力があったのだ。だからこそ、香港で偽物が出てきたのだろう。最近では、「とちおとめ」の流れを組む「スカイベリー」等々、次々に新種の苺が出てきている。

 私は、子供のころ食べた、120年の歴史を誇る静岡の石垣苺が、懐かしく思われた。
 今回、私が買ったあの「あまおう」は、味はまあまあだったが、結局ジャムに変身してしまった。そして、翌日の朝食にパンと共にいただいた。手製のジャムは、今回「あまおう」のことをいろいろ学んだ私の心を、暖かくしてくれた。

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