新妻の悩み ③前編 連載(003 隅田川)
更新日:2008年4月20日
ジャンパー姿の井伊佳元は、店内の柱時計をみた。もう11時を回ってきた。かれはラフなスタイルで休日出勤し、早朝からバレンタインのディスプレーをしていた。
きょうの午後2時には、真鍋(まなべ)美紀(みき)と逢う。『東京クルーズ』浅草発着場から出航する『隅田川ライン』の観光船に乗る、と約束事ができていた。
かれはさっきから、妙な胸さわぎをおぼえるのだ。このモヤモヤはなんのか。またしても、遅刻し、観光船の出航時間に遅れてしまうのか。そんな予感なのか。
(あと30分以内、昼まえにはかならず店を出るぞ。どんなことがあっても、2時出航には遅れられない)
井伊は自分に言い聞かせていた。
かれの脳裏には、胸さわぎの原因のひとつとして、鬼頭統括部長の顔が浮かんだ。12月の店長会議は欠席した。鬼頭はそれについて一言もふれてこないのだ。もう1ヵ月半が経つ。これにはなにかある。裏がありそうだ、おかしいと、井伊はどこか心に引っかかるものがあった。
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