A025-カメラマン

『春花繚乱』 恋の花歌舞伎・悲劇は美なのか?(2)=写真で観劇 

 S-NTK 第2回 公演   『復興支援チャリティー公演』 

                   一景 阿国花歌舞伎 二場 恋の花歌舞伎
 

         2015年2月7日(土)・8(日)  大井町きゅりあん 小ホール  


 1603(慶長8)年、出雲阿国と呼ばれた女芸能者が、京都で、念仏踊り「かぶき踊り」を興行化しました。これが歌舞伎の起源です。男役もすべて女性が演じていたのです。
 現在と逆でした。


 美女の出雲阿国はいまも伝説のひとです。
 

 ※ 写真キャプション(説明)として、舞台イメージから『物語』をつけてみました。『恋の花歌舞伎』の脚本とはまったく関連ありません。


 


 京の都で、出雲からきた「阿国」(五月梨世)は、その美しさから、絶大なる人気だった。



 四条河原の芝居小屋で舞台に立つ阿国の踊りは、あまりにも濃艶で美し過ぎた。

 京の都のみならず、諸国・津々浦々に、その名が知れ渡った。

 座長の新五郎は、大切な人気の芸人に男がついてしまうと、興行に悪影響がつくと怖れる。阿国にを執拗(しつよう)に監視する。

「怖いのは堺商人だ。大金を積めば、阿国が妾になるはずだと、信じておる」

 現に、堺商人のなかには数人、芝居小屋に通いづめてくる輩がいる。要注意だ。

 人気役者の阿国は、いっときも離れず背後にいる座長・新五郎(舵一晴・元宝塚歌劇団花組)を意識していた。

「私に、自由が欲しい。恋もしてみたい」
 
 阿国は胸のなかで、つねに呟いていた。

 尾張国から、 武将・名古屋高久の次男の、山三郎(さんさぶろう・帆之亟)が京の都にやってきた。父方は北条氏の子孫、母方は織田氏の縁戚という、名家だった。



 見目うるわしい「美男・美女」という言葉が、最も後世に残ったとすれば、この2人だろう。

 さらなる上といえば、義経と静御前くらいだろうか。



 阿国と山三郎の仲を警戒するのは、座長の新五郎だった。

「まずいな。あんな美男子じゃ、阿国が惚れてしまう。恋は危険だ。なにをしでかすか判らない」

 新五郎の眼は従前に増して、いっときも阿国から離れなかった。

 「山三郎さま、あなたは憎いひとです。私の胸をこんなにも、苦しめています」

 「拙者かとて同じだ。このまま阿国を連れて、尾張に帰りたい」

 「わらはも、ついていきとうございます」

 「今夜、四条河原で逢えないか」

 

 「芝居小屋から、抜けだしてきました。山三郎さまに逢えると想うと、怖くなかった。いいえ、殺されても、逢いにくくと決心していました」

 「よく来てくれたか。嬉しいぞ。名古屋で、夫婦(みょうと)になろう」

 「うれしい。強く抱いてくださいまし」

 


 「芝居小屋に、わらわの荷物を取りに行ってきます。小時、お待ちくださいまし」

 「用心して、参れよ。芝居小屋には、怖い座長がおるのだろう。拙者との駆落ちが見つかると、危ないからな」

 「はい。巧くかいくぐってきます。名古屋で所帯を持てたら、私の生まれ故郷の出雲にも、里帰りしてみたい。わがままでしょうか」

 「戦国の世も終わった。拙者が出雲に連れて行こうぞ」

 「嬉しい。幸せすぎるのが怖いくらい」

 「まだ物騒な世だから、護身用に、この小刀をもっていくとよい」

 山三郎は腰の二刀から、それを抜き取った。


 「おい。どこにいく」

 「あっ、座長さん。近寄らないで」
 
 阿国は護身用の短刀を抜いた。

 「そんなもので、脅せると思っておるのか」

 「止めてくださいまし」


 「逃げるのか。逃げたら、容赦しないぞ」

 新五郎はかっとなったら、見境がなくなる性格だった。

 

 阿国を失った新五郎は、激怒した。

 「相手が侍でも、許しておかない。ぶっ殺してやる。どうせ、落ち合う場所は四条河原だろう」

 まわりの芸妓たちは、怖くて震えていた。

 もはや、だれも新五郎を止めることができない。
 



 名古屋山三郎は、北条家と織田家の血筋を引く武将だ。

 芝居小屋の座長など、相手になるはずがなかった。

 一刀で斬り捨てた。

 阿国の芸子仲間の、弥生(麻乃佳世・元宝塚歌劇団 月組)が河原にやってきた。

 「お伝えするのはとても辛いのですが、阿国さんは今しがた息を引き取りました」

 「えっ、なぜ、なぜだ」

 「座長に殺されたしまったのです」

 「さっき突然、襲いかかってきたのが、座長か」
 

 「阿国が……、殺されるなんて。なんで芝居小屋までついて行ってやらなかった。迂闊(うかつ)だった」

 「お慰みのお言葉もありませぬ」

 「ふたりは尾張で夫婦になろうと、約束たのに。こんなことがあるのか」

 山三郎は、成人男として初めて涙をながした。


 「これが阿国の形見となった、扇子か」

 「阿国だけ、ひとりで西方の彼方に行かせぬぞ。あの世に行って、寂しい思いをさせぬ」


 「おやめくださいまし」

 「止めてくれるな。恋に生きたものの本懐だ」

                                          【了】

「カメラマン」トップへ戻る

ジャーナリスト
小説家
カメラマン
登山家
「幕末藝州広島藩研究会」広報室だより
歴史の旅・真実とロマンをもとめて
元気100教室 エッセイ・オピニオン
寄稿・みんなの作品
かつしかPPクラブ
インフォメーション
フクシマ(小説)・浜通り取材ノート
3.11(小説)取材ノート
東京下町の情緒100景
TOKYO美人と、東京100ストーリー
ランナー
リンク集