第10回さつき会は華やかな演舞で、心を魅了する=写真で舞う (上)
第10回ともなると、十年一昔と言うか、苦節十年と称すべきか、確固たる形が作られてくる。さつき会の踊りを観ていると、それぞれに上達したな、会の形ができたな、と思う。
さつき会がことし(2014)も、7月12日に、東京・大井駅前のきゅりあん小ホールで開催された。主催者は元宝塚歌劇団の人気・男役の尾上五月さんである。
日本舞踊は、長い伝統を持った、美の世界である。美とは何か。それは踊り手の自己表現だと思う。
からだの曲線、手の動き、眼線のむけ方、つま先までの緩急の運び方、諸々のファクターが一つに統一された時に、美の世界が表現できる。
生意気なことを言うようだが、それをどこまで写真で表現できるか。そんな気持で、シャッターを押している。
踊り手 加藤浩子さん
演目 藤音頭
美空ひばり「みだれ髪」のメロディーに乗って踊る、根本美智子さん。音楽はよく知っているが、カメラではメロディーなど写し撮れない。
そうなると、背景の映像で、いくらかでも、「塩屋崎」に近づく。
作詞家・星野哲郎さんの歌碑が、塩屋崎の一角にあった、このメロディーが流れていた、と思い起こした。1月の雪降る日だった。
長唄・「岸の柳」を踊る松本美智子さん。踊りはきっと3分くらいだろう。1年間の集大成には間違いない。
撮影する側としては、本番の3分間の流れのなかで、構図を考える。無駄な空間を作らず、シルエットを考える。
踊り手の動きのなかで、柳、蛇の目傘を配置していく。まばたきの瞬間も考える。
「もっとこっちに寄って」というスチール写真とは違う、瞬時の世界だ。
端唄「梅にも春~ 梅は咲いたか」を踊る伊藤章子さん。紅梅と白梅を観賞する情景の踊りである。伊藤さんの目が梅の木に向いていると、単純すぎる写真になってしまう。
春の風(東風)を感じている。それを写しだす。
「さつき会」の開幕にふさわしい、長唄「鶴亀」を踊る。
尾上菊朝、尾上れい、尾上月香、尾上菊八さんたち。
観客席の最前列にいたので、踊り手の全員を収めるのに苦労させられた。撮影にはロケーションが重要だ。まさにそれを知った1枚だった。
幕があがると同時に、舞台の光とレンズの調和を考える。4人が上手くおさまらないな。3分しかない。一人ずつ撮影し、4枚の組み写真も考えた。
それでは踊り手たち4人の呼吸の良さが伝わらない。かろうじて、最後のシャッターで、滑り込みセーフだった。
『惚れたあいつは旅役者』を歌う、谷本浩二さん。さつき会の門下生で、ことしCDデビューしました。よろしくね。熱唱でした。
大和楽「江戸祭」松崎真理子さん。
撮影場所を2階に移しました。提灯、踊り手、シルエットと三位一体で、「浴衣と祭り」の情感を狙ってみました。
神田祭のイメージがかもしだされたと思う。実際は江戸三大祭りのどこか、私には解っていません。
常磐津「もやい船」を踊る小俣信子さんを観ながら、舟遊びの大川(隅田川)の情景を想う。時代小説を書いてみたいな、と会話文が浮かぶ。
最近は歴史小説の執筆だから、こんな艶っぽい姿は想像過ぎる。時代物ならば、のびのび描けるのだが……。
【つづく】