A025-カメラマン

春の海を求めて七里ヶ浜へ=神奈川・湘南

 日本海側は大雪に見舞われている。一般にいう雪国の、積雪量は1メートルをはるかに超えている。
 太平洋側も寒波の影響から、春の花がまだ開花していない。各地で「梅祭り」がスタートしたが、肝心の梅はほとんど咲いていない。

 春の匂いは、湘南の海辺にあるかもしれない、と七里ヶ浜の海岸にやってきた。

 20代の溌剌とした女性たちが砂浜を散策している。彼女たちは若さを海辺まで運んできてくれている。それだけでも、たっぷり春を感じることができた。

 鎌倉から江ノ電に乗って、七里ヶ浜駅までくると、駅から海岸までわずか1、2分の距離にある。磯の香りをかぎながら、海岸に降りていく。
 江の島が近景にあり、多少は雲をかぶっているが遠景に富士山がそびえる。


 海岸には、藻の匂いが鼻孔を刺激する。漂流物には牡蠣(かき)殻がついている。このブイはどこから流れてきたものだろうか。

 みるからに漁師が使う漁具だ。もしかしたら三陸あるいは宮城あたりか。3.11の大津波の後に流れ着いたものかもしれない。

 あながち外れてはいないかもしれない。牡蠣は三陸の特産品だから。
 

 制服姿の修学旅行生が目立つ。グルーブ5-8人ほどでやってくる。

 昭和時代の修学旅行といえば、教師の引率のもと、観光バスで規律正しく見学だった。それも、社寺仏閣がやたら多かった。

 平成の修学旅行は、グループで見学場所が選べる。自主性尊重の良い学校風土ができたものだと思う。
 シーズンはかつて春か、秋と相場が決まっていた。旅シーズンで、交通機関も混雑する。いまや冬場でも、修学旅行は行われている。合理的だと思う。



 太陽がぎらぎら輝く。春を感じさせてくれる、強い日差しだ。海面に反射し、まぶしくも、心のなかには高揚感が広がってくる。

 海と太陽は人間の最大のエネルギー源だ。人類誕生の源でもあるのだから、理屈抜きで、神々として崇拝する人は多い。


 東京都内から、時折見える富士山は小粒である。それでも、富士が見える日は空気の澄んだ、快適な日だ、という感慨がある。それは日本人だからだろう。

 湘南の富士山は大きいな、見事だな、と思わず見入ってしまう。

 湘南を一躍有名にしたのは、石原慎太郎著「太陽の季節」が芥川賞を受賞してからだろう。と同時に、石原裕次郎の映画から、湘南海岸で車で疾走する、という光景が多くの感動と驚嘆を与えた。

 湘南の海岸線に沿った国道はいまも人気がある、ドライブルートだ。

 かれらの乗る車体から、「青春」そのものが読み取れる。バイクツーリングは、自己顕示欲だけではない。エネルギーの発露なのだ。

 昭和30年代の「太陽族」が、湘南には脈々と引き継がれているようだ。

 三浦半島や鎌倉や逗子海岸が、近景として風光明媚な湘南を形成している。

 七里ヶ浜は湘南を代表する絶景だ。美しい海岸に沿って、おしゃれな店が並ぶ。

 「カレーライスが超有名です。おいしいですよ」
 そんな情報から、脚を運んだ店が、レストラン『珊瑚礁』だった。人気店だけに、午後2時過ぎでも順番待ちだ。カップル、家族連れ、若い女性どうし、中高年層と、利用者の幅は広い。
 
 従業員はアロハ姿だ。珊瑚礁の名に恥じない、雰囲気だ。そのうえ店内から海辺が一望できる。テラスでも料理が運ばれる。


 湘南海岸は「青春」の舞台として申し分のない景観である。自然が若き春を優しく受け入れてくれる。彼女たちには話し合いの場、思い出作りの場である。

 海を見て散策しながら、たがいの人生の夢とか、恋とか、語る。聞いてもらう。それらおしゃべりが青春だろう。

 サーファー族は真冬の海でも、スポーツとして波に向かってチャレンジする。20年のキャリアを持つ人に寒さを聞いてみた。
「いまの季節は、海のほうが温かいです。でも、2時間が限度です。それ以上は耳がちぎれそうになります」と髪をタオルで拭いながら語ってくれた。


 日没寸前の湘南の海が撮りたい。まだ時間がある。七里ヶ浜駅前の洋菓子店のテールームで、時間待ちしていた。
「まだ大丈夫だろう」と高をくくっていた。浜辺に行くと、期待するダイヤモンドの輝きの太陽は、すでに江の島のかなたに沈んでいた。

「また足を運んでくる、その理由ができたな」
 そんな風に気持ちを切り替えた。楽天的な性格すぎるのかな。



 往復は江ノ電を利用する。この路線の旅には、駅名の魅力がある。歴史があり、おしゃれであり、風雅なひびきがある。乗客すらもセンスの良い雰囲気がある。

 どの駅に降りても、古刹や花や風景が楽しめる。今年もきっとなんども来るだろうな、この江ノ電の沿線に……。
 

                        撮影:2012年2月9日

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