A025-カメラマン

寝苦しい夏の夜長に、「会報」をよむ・シリーズ③=日本写真協会

 文章が上手ですね、と褒められても、私は別段、嬉しいとも思わない。しかし、写真を褒められると、本当ですか、と身を乗り出すのが常だ。
「穂高さんの写真は何を伝えたいか、いつも、はっきりしていますね」
 PJニュース仲間の新聞社勤務の人から、そう評されたことがある。私の写真はテーマがはっきりしているんだな、と理解した。もう4ほど前である。

 小説やエッセイなど文章作品と、写真とは実によく似ているな、と思う。良い文章は無駄なところが削ぎ落され、圧縮・省略の技術が冴えているものだ。写真も同様。ムダな物体や空間を削ぐほどに、密度の濃いすばらしい作品になる。

私はかつて水晶岳の山小屋新築工事現場に出向いた。そこで撮影した写真は、北アルプスの峰々の遠望と相俟って、誰彼に撮れない、珍しい写真だという思いがあった。「峻岳の新築」というタイトルをつけて、ある大きな写真展に応募してみた。入選作品になった。

 後にも先に写真の応募をしていないから、私の写真の実力はわからない。それでも、プロのジャズ歌手のコンサートや、元宝塚歌劇団メンバー「炎樹」から、舞台撮影を頼まれるので、喜んでカメラを持って出かけている。

 私の写真は独学である。ブックオフなどで写真雑誌100円を数冊まとめ買いをしておいて、文筆の一間に読んで学んでいる。
 それだけでは限界がある。写真の専門家に出会うと、つねに「写真の上達法」を聞くようにしている。つまり、耳学問である。

 PJニュース・小田編集長とは一時、高所の山によく登った。小田さんはジャーナリストの観点から、三角形、S字型など構図を中心に教えてくれた。
 同メンバーの池野さんは大きな写真展の審査委員でもある。「良い写真をたくさん見ることですよ」とアドバイスしてくれた。それはどの写真家も異口同音に語る。

「観る機会と、学ぶ機会を増やす」
 その目的から、東京都写真美術館に記者登録をさせてもらった。企画展の案内がくるので、時間が許す限りでかけている。同館の学芸員や著名な写真家みずから、撮影技術、苦労話、テーマに対する説明などが聞ける。これは勉強になる。

 素人とプロとの違い何か。あるとき不意に、学芸員の説明から、著名な写真家や有名な作品には『人物には動きのある』とわかった。それ以降、その視点で観ているが、大半が当たっている。ひとつの法則の発見かもしれない、とかつてに解釈している。

 あるパーティー会場で、田沼武能さん(日本写真家協会・会長)から話を聞くことができた。かつて写真技術は大学の写真学科で学んだものだ。現在はカメラがやってくれる。だけど、写真には上手、下手の差が出る。
 上達するステップとして、「良い写真を真似しなさい。それを売ってはダメですが、真似から上達します」、「主役と脇役を明確にしなさい」と話された。

 写真を学べる環境に身を置く。それには専門家がいる団体に所属し、身近に写真家を感じることだと思い、公益法人日本写真協会に入会した。2年前である。


 2011夏(445号)の表紙は奇抜である。写真は森村泰昌さんの作品で、平成23年「日本写真協会・作家賞受賞」されている。

 同賞・功労賞を受賞された、福原義春さん(東京都写真美術館・館長)に聞く、というインタビュー記事「存在感のある美術館をめざして」が読み応えがあった。一部、同館の村尾知子さんの口添え。

『皆さん苦労されて、よくぞ、ここまで盛り上げたな』と、つよく胸にひびく内容である。

 日本では、写真専門の総合美術館として唯一、東京都写真美術館が存在する。2000年11月に福原さんが館長になる。
 それ以前は、展覧会の予算もない、作品収集の予算も全部削られ、館長のなり手もなかった。(館長も4ヵ月間も空白だった)。展示室にお客さんが4~5人ていど。予算もないし、貸しギャラリーにするか、閉館にするか、という話が出ていた。

東京都美術館を再生させた、原動力は何か。

 福原さん(資生堂の社長、会長を歴任)は、石原都知事から館長に要請された。就任後、「あらゆることをやって入館者を増やそう。ちゃんとお金を払った分だけ、何かを得て帰っていただく仕掛けを考えよう」と提案した。
 新進作家の登竜門としての展覧、コレクションを使ったシリーズの企画など。ところが、みんな反対だった。やがて、副館長が乗ってきた。「静かな賑わい」というテーマの下に、目標は3年後、来館者は年間・30万人だった。それも、早々に達成した。

           『世界報道写真展2011の入選作品』の展示会場


 東京都の補助金や入場料だけでは足りない。企業に支援してもらう、維持会員制度(一口30万円)をはじめた。現在は、243法人になっている。そのお金で、自主企画展ができるようになった。(都の補助は常設展だけ)。今年度は、来館者が42万人になった。

 定性目標の推移をみると、「静かな賑わい」「写真とは何か」「感動を与える美術館」「明るく迎える美術館」「信頼される美術館」「判りやすく説明する美術館」「対話する美術館」「顔が見える美術館」「交流を広げ、つながりを強める美術館」「お客様のニーズにチャレンジ!」とつづいている。

 大きな改革には、表に出てこない軋轢(あつれき)も多々あったはず。それはそれとして、観客数の増員につながる、館長と職員との英知と努力が読み取れる。と同時に、写真文化の拡大の熱意が伝わってくる内容である。

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