葛飾区は話題のエコシステムにおいて、全国の数ある自治体と比較しても、随一と言えるほど、手厚い助成制度を設定している。
利用が多いのは太陽電池やエネファームである。最近は記者も区内で自転車に乗った時や、レンタカーを走らせる途中で、日産リーフなどの電気自動車を見かける機会が多くなったと実感している。
エコに対する市民の意識が高まっている証しで、特に葛飾区民は「エコな・こころ」を持つことができる、恵まれた環境にあると言えよう。
ハイブリッド車が認知され、トヨタ自動車は水素燃料電池車『MIRAI(ミライ)』を発売するなど、ここ数年で大きな進化をしている。
急速充電設備などのインフラが充実すれば、電気自動車はハイブリッド車と肩を並べる存在となり、私たちの暮らしをより豊かにするだろう。ただ、今はまだ近くて遠い存在である。
その電気自動車を取材して、現状と課題を考えつつ、私たち葛飾区民の日常が今後どのように変わっていくのか、その青写真を頭に想像しながら、レポートを進めていきたい。
ガソリン自動車の大先輩
電気自動車は走行中に排気ガスを出さず、静かで経済性に優れ、乗り心地も柔らかいなど、良いことずくめである。
その電気自動車は資料などを調べるうち、意外にも私たちが普段生活する上で欠かせない、ガソリン自動車より長い歴史を持つ、モータリゼーションの大先輩だった事実が判明した。
ちなみに、現在のガソリン自動車を歴史的に確立させた人物は、1886年に原型を開発した、ダイムラーやベンツだと言われている。
(世界最古と思われる電気自動車の貴重な写真)
電気自動車はそれより50年近くも前に、スコットランドのアンダーソンが電池とモーターを駆動した簡易型を製作している。その後、ガソリン車との開発競争が激化、1940年以降はオランダやアメリカで進化する。
不運にも二度の世界大戦が始まり、電気自動車は脆弱で壊れやすく、部品も未熟だった為、軍用として丈夫なガソリン自動車が普及したと考えられる。
ちなみに日本でも大正天皇のご成婚を祝って、アメリカの在留邦人が電気自動車を献上するも、上陸した直後の試運転で道路を外れて大破してしまい、長いあいだ東宮御所に放置されていたそうだ。
日産でリーフざんまい
電気自動車はテスラ・モーターズを始め、欧米の開発が盛んで、日本では日産がリーフ、三菱がi-MiEV(アイ・ミーブ)を市販している。
記者は『日産プリンス東京葛飾店』に、取材を申し込んだ。
井口信之店長(写真左)と、営業推進部EV推進室の工藤正孝EVアドバイザー(写真右)から話を伺うことができた。
「リーフは、燃料代がガソリン車の4分の1から5分の1程度です。購入時には国から27万円、葛飾区は25%の補助金があります。自動車税は5年間無料で、経済性に優れています」と井口店長は胸を張る。
車庫に充電プラグを設置する場合は、日産東京地区3販社で無料キャンペーンを実施している。月額3000円(税別)を払えば、通常500円から1500円程度かかる急速充電、地図更新やメンテナンンスも無料となる。
家庭用の場合は、200Vの深夜時間帯がお奨めだと話す。8時間かけ100%充電し、約160km走行できる。
(エアコンやオーディオを使うので、距離は実質的には80%程度)
急速充電は約30分で、80%から85%の充電が可能です、と工藤さんは語る。
安全運転に心がけ、充電中は読書でもして、穏やかに過ごそう。
未来のドライブを体感
日産プリンスではスカイラインなど、数種類のハイブリッド車をラインナップするも、本命の電気自動車で推していく予定だ。
工藤EVアドバイザーからひと通りの操作説明をしていただいた。その上で、少々早い五月晴れの水戸街道で、10分間ほど試乗体験をさせてもらった。
まず驚いたのは、運転席に着座したときのコックピット回りである。従来のガソリン車にあるアナログ針やスイッチ類などは、ほとんど見当たらない。
主電源をスタートさせても、動作音はまったく耳に届かず、周囲を走る自転車や道行く人の声が、かえって大きく聞こえたのは驚いた。
「走行音があまりに静かなので、歩行者や自転車が気付かない恐れがあります。その対策のために、時速30kmまではエンジンの擬音を外側に流す、そうした仕掛けになっています」と工藤さんは話された。
公道に出てハンドルを切ると、軽くスムーズで力を持て余すほどだ。非力な女性や高齢者でも、安心してドライブが楽しめそうだ。
指一本でエコモードを外せば加速も鋭く、乗り心地は大型リムジンより上質である。魔法のじゅうたんに乗るような、爽快な気分が味わえた。
区役所もエコ・ハートに協力
葛飾区内では、日産自動車系列店で5ヶ所、三菱自動車で1ヶ所、急速充電設備を設置している。
公共施設では、かつしかテクノプラザと区役所本庁、新小岩東北広場の3ヶ所で、一部のファミリーマートでも設置している。
同区役所環境課の神 千尋(じん ちひろ)さんから助成金の内容を聞いた。
同区役所環境課の神 千尋(じん ちひろ)さんから助成金の内容を聞いた。「経済産業省から補助金が支給され、急速充電設備を3年前から導入しています。設備は24時間フル稼働していますから、皆さんには活用してほしい です。
上記の他、区内ではライフの2店舗などにも設置しています。随時、増えていく予定です。今後、少なくとも5年間は、無料充電の体制を維持いたし ます。
広報誌やホームページでも、助成金の話題を展開していますし、新車購入の際は電気自動車も検討していただき、ぜひとも導入してもらいたいです ね」
と語っていた。
・ すぐやる課の犬塚洋幸係長には、職場で活用しているi-MiEV(アイ・ミーブ)の現状を語ってもらった。
「区民の皆さんが困った事に対し、迅速に対応する必要があります。電気自動車はパワーがあり、乗り心地も抜群で、重宝しています。ただ、20分間の充電で、2時間しか乗れないのが、唯一の不満です」
・
あとがき
今回の取材にあたり、電気自動車は記者の予想より優れた乗り物だと実感した。購入すれば、毎日充実したカーライフが過ごせるだろう。
取材を進めているうちに、気になる課題もいくつか見つかった。
まず、ガソリン車と比較して、導入時のコストが高いことだ。国の補助金と併用して、葛飾区が相当額の助成をしているが、本体価格が266~350万円になる。国産の高級サルーンを購入する場合と、同等の手持ち資金が必要となる。
航続距離が130km程度で、エコな運転を心がけても、葛飾区内から、東は茨城県日立市、西は静岡県三島市ほどの片道しか行けない。
そして最大の難点はやはり、充電スタンドが少ないことに尽きる。
現状ではディーラーや事業者、葛飾区役所などの行政と積極的な連携ができていないと思われる。
それぞれのイベントで車両をアピールして試乗させ、利用のアイデアをコンテストで表彰したり、ブログやSNSで公開したりすることを条件に、格安で短時間レンタルするなどの工夫をしてはどうだろうか。
ハード面はとても素晴らしい。ソフト面を充実させて利用者側のハートをつかめば、エコな日常生活が近い将来きっと実現するだろう。
未来がいま、ここにある
究極のエコ・ハートにYES!
(かつしかエコノプラザで、充電中の一般車両に許可を取って撮影)
参考サイト:スマートジャーナル・AUTOCAR・日産自動車ほか
(取材日:2015年4月24日)