A045-かつしかPPクラブ

性同一性障害・りりーさん = 斉藤永江

 2014年8月、『性同一性障害・友子さん』の記事を書いた。金髪でミニスカート姿で現れた奇抜さには驚き、筆者はインタビューを願い入れた。当時は彼女の現状を伝えるだけの内容であった。

 あれから1年が過ぎた。
 友子さんとの交流は続いた。定期的に会い、お酒を飲みながら親交を深めた。


 趣味や思想に加え、悩みや葛藤も、未来の夢に至るまで赤裸々に語る彼女の口跡を書き記したい。

「以前は金八先生の桜田友子役に憧れて友子と名乗っていました。これからは、リリーと呼んでくださいね」
 映画『男はつらいよ』のマドンナ、浅丘ルリ子演じるリリーが最終的にめざす女性像なのだと言う。
 性同一性障害の、りりーさんのその後を追ってみた。

 リリーさんは、2004年4月から2008年9月まで葛飾区立石の渋江公園で路上生活を送っていた。NPO法人自立サポートセンターに保護され現在は青戸のアパートに住んでいる。

 8万円の生活保護費で全てを賄う。
「お金を頂いたその日に、1か月分の食料を買います。おもに100円ローソンの餃子と焼売。そのまま冷凍保存できますからね。あとは大好物の納豆を買い込みます。納豆を韓国のりで巻いて食べるのが好きなのですが韓国のりまで買うお金がないんです」と笑う。

 居酒屋の席でビニール袋からごそごそと何かを出している。
「拾ったタバコです。毎晩12時になるとタバコの吸い殻を探しに散歩に出るんです。まだ吸えそうな長さのものを拾います。こうしてハサミで吸い口だけ少し切り落として吸うんですよ」
 3㎝にも満たない短いタバコを器用に指にはさんで吸っている。

「危ない、短くなってるよ、リリーさん。やけどするよ」
 そう心配する声に、
「慣れてるから大丈夫なんです」と笑う。

 リリーさんについて話す近所の人の話を耳にしたことがある。『夜中にたばこの吸い殻を拾って清掃活動をしてくれている偉い人』という解釈だった。
 なるほど、まさか、数センチにまで短くなった吸い殻を集めて吸っているとは想像できないはずだ。

「雨が続くと吸い殻がだめになってしまうので辛いんです。でも、ごくたまに、コンビニの手つかずのお弁当が捨てられているご馳走にありつけることがあるのです。そんな時は本当に嬉しいですね」

 リリーさんは外出時、必ずヘッドホンを耳にして音楽を聴きながら歩く。
「わたくしのいで立ちへの偏見は今だに強く、通り過ぎぎわで、気持ち悪いとか、あっちへ行けとか、死ねとか、ひどい言葉を浴びせられることがしょっちゅうです。それらの声が聞こえないように常に音楽を流しています。洋楽から演歌まで何でも聞きますよ」
 読書も趣味の一つだ。
「お酒のつまみは本を読むことなんです。図書館の貸出は、30冊までですよ。本を読みながらお酒を飲みます。語学の本や西洋美術の写真集が好きです。読み聞かせの活動もしてみたいです」

一人で過ごす時間が多いリリーさんには趣味が多い。

 その一つに日本古来の武器の収集がある。
「育った家の床の間に日本刀が飾ってあった影響で興味を持つようになりました。父と母が亡くなって家を売り払ったお金で買い求めました」
日本刀、ヌンチャク、手裏剣、一つ一つの詳しい使い方の解説が始まる。実際に振りかざしながら真剣に語る姿には、武術道に対するリリーさんの熱い思いを感じた。

「経済的な余裕があれば、武術学校に通いたいのですが、趣味に回せるだけの余裕が今の私にはありません」
 リリーさんは残念そうに語った。

 日本では、2003年7月10日に『性同一性障害者特例法』が成立し、翌年7月16日に施行されている。
 これにより、一定の条件を満たせば戸籍上の性別変更が可能になった。法務省の統計によれば、2012年までに約4000人が性別を変更している。

 しかしながら、世間の偏見と差別は根強いものがあり、職探しは困難を極める。
「今まで200社あまりに断られてきました。その1部をお見せしますよ」
 そう言って数枚の封書を差し出した。

「どの会社も対応は良くしてはくださるんです。でも採用の人がOKを出してくださっても、社内の上層部に理解をもとめなければいけないという理由で結局は断られてしまうのです。浅草寺境内の掃除の話はいいところまでいっていたのですけどね。観光客の目を考えると難しいという理由でだめでした。60才になる前には正職につきたいと焦っているのです」
 現在は担当のケースワーカーと連携をとりながら、ハローワークへも積極的に足を運んでいる。

 多趣味なリリーさんはたくさんの引き出しを持つ。
「やりたいことはたくさんありますが、定職について自分の力で生活を安定させることが当面の目標です」
 そう語るリリーさんだが、
「性同一性障害の偏見をなくす活動は続けていきたいです。また同士たちが集まれる居場所作りを積極的に推し進めていきたいです」

 現在は、性マイノリティー(性に対し少数派の総称)の仲間で作る『心のつばめ会』に参加し交流を深めている。
朗読会への参加や好きな長唄の勉強もしてみたいと語る。

 ファッションに興味が強く、出来れば服飾関係の仕事につきたいと希望している。

「辛い思いもしたけれど、手を差し伸べてくださるかたのお陰で生きてこれました。その方々に感謝しながらも、性同一障害が世間に認められ、私たちが生きやすい世の中になってくれることを願っています」
 リリーさんの今後を見守りたい。


           ・ 居酒屋の店先で人目をはばからずロングブーツをはく。
             ファッションにはこだわりがある



 ジンが大好きなリリーさん。
 飲んでいる間はほとんど食べ物を口にしない。酔うと饒舌で朗らかになり笑い上戸になる

 2014年12月・青戸『千年の宴』にて

          写真・記事:斉藤永江

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