白根の風 = 宮田栄子
<想い・前>
2013年1月、東京・葛飾で『第5回堀切大凧揚げ大会』が行われた。P・Pクラブとして取材をおこなった。凧の大きさには圧倒され、大会の最後には綱を引かせてもらった。そして、大凧の、綱の強さに感動した。
新潟県の白根大凧合戦実行委員会は、大凧持参で、毎回、葛飾まで指導に来てくれる。同委員会の佐藤会長をはじめ、多くの方々から熱い話をうかがった。
一方で、PP記者はその日のうちに、「本場白根の大凧合戦を取材に行こう」と決まった。そして、約半年後の6月6日、P・Pクラブの記者仲間7名が白根にむかった。
しろね大凧と歴史の館
新幹線で燕三条に行き、そこからは車で南区(旧白根市)へ向かう。まず『しろね大凧と歴史の館』を訪ねてみることにした。
館内には白根大凧はもちろん、国内、海外の珍しい凧が4000点余り収蔵、展示されている。世界最大の博物館だ。
同館には白根地区の歴史民俗資料も展示されている。
江戸時代から約300年にわたり、受け継がれる「凧人」の心意気が、この館からすでに十分伝わってくる。
同館より凧揚げ会場まで、シャトルバスが出ている。車中で、席が隣り合わせたとなった保科さんから話が聞けた。
「勤務先の会社で組をつくり参加していましたが、不景気などの理由で今は撤退してます。自宅からは遠いのですが、やはり見たくて毎年来てしまいます」と語ってくれた。
区民記者として葛飾から取材に来たと伝えると、喜んでくださり
「1人でも多くの人に、白根の凧合戦を知らせて欲しい」
と話された。
街をあげての大パレード
同日、12時30分より晴天の下でパレードが開始された。
各小、中学校よりスタートし、本町通を中心に、1時間をかけ中ノ口川会場まで歩くコースである。
色とりどりの衣装を身に着けた、緊張気味な小学生。少し照れ気味ではあるが、演奏はしっかりした中学生。両者とも誇らしげな顔だった。
真剣に見入る園児たち
歩道では、保育園児が大勢の大人にまじって、目を輝かせて見ていた。
「自分たちもいつか将来、あのパレードの中にいる」と思っているのだろう。今、ここにいる観客を含めて、全員がすでに大凧合戦に参加しているのだ。
いよいよ開戦式
昨年の優勝チームより優勝旗の返還
13時30分から、いよいよ開会(戦)式だ。
遠藤南区長の挨拶からはじまる。その区長と共に葛飾に来てくれた佐藤実行委員長も「くれぐれも怪我のないように」と声を大にして呼びかける。それだけ合戦は危険なのだ。
昨年の優勝チーム、「桜蝶組」の優勝旗返還が行われる。その目はすでに、奪還に燃えていた。
大凧は24畳(5×7m)約50㎏、元綱(径2.5cm×130m)約40㎏だ。
今年は、東軍6組、西組7組である。ひと組でおよそ15枚から40枚の凧を用意する。その大凧の合間を縫って巻凧(六角凧・2.2×2.8m)も揚がるのだ。
熱気の中、開戦の火ぶたがきられた。6月6日より10日まで、5日間にわたって熱戦が繰り広げられた。
大凧よ 風をつかめ
凧が風をつかまえた。走れ
合戦のルールについて、実行委員の島倉さんから説明を受けた。
「中ノ口川(川幅80m)の両岸から大凧を揚げ、空中で絡ませるのです。と同時に、凧を川に落とし、相手の凧綱が切れるまで引きあう、合戦です」
最初に東軍(女に例え)が西軍(男に例え)の堤防めがけて揚げられる。そして、低空で相手を待つ。やがて、西軍の凧が揚がり、上空から相手(東軍)の凧綱と交差させ、水面に落下させる。これが空中戦である。
(西軍はタイミングが合わないと、川に落ちる確率が高い。だから、凧を多く作る)
互いに綱を引き合って、相手の綱を切ったほうが勝ちとなる。
通算勝数の多い組が優勝、同点の時は勝綱の長さで決める。
なんとも贅沢な凧合戦
大凧は1枚15万円。
(そのつど川に落とし壊れる)
元綱は1本200万円(約100日かけて作る)寿命は勝てば5年。
引け大綱 街の中まで
凧合戦とは空中戦だけだと思っていた。ところが違った。
揚げるために、走る。風を読み、鼻緒を操る。
白根はここから違っていた。風を逃がし、相手を絡める。共に川へ落とす。そして、いよいよ見せ場となる。
東西それぞれの陣営で130mの元綱を、渾身の力をこめて、引く。引く。
老いも若きも子どもたちも、男も女も、元綱という、かけがえのない絆を引く。町中の人が、見物人が、旅人が、引く。土手で、路地で町で引く。
元綱のように脈々と引き継がれる。大凧の伝統は白根の人たちの支えであり、誇りである。
揚がった瞬間
絡んだ瞬間
切れた瞬間
力を合わせて引いている数分間は至福の時である。
<想い・後>
白根の旅は楽しかった。取材そっちのけで、合戦に見惚れてしまった。見知らぬ多勢の人と、夢中で元綱を引いた。
「心をひとつにする。それが絆だ」と初めて解った気がした。
「そんなこと当り前さ」
白根の風がわらいながら吹きぬけた。