A045-かつしかPPクラブ

朝日新聞・書評委員会メンバーの立石ツアー・深夜まで悦に(下)

 朝日新聞・書評委員会のメンバーが、京成立石駅からアーケードを抜けた先の、奥戸街道に面した居酒屋「あおば」に着いた。(駅から2分)。書評委員、編集委員、記者が三々五々と集まる。
「あおば」は昭和が残る・下町の、昼の定食屋が夜に居酒屋になった感がある。終戦直後からの「のんべ横丁」に驚嘆していたメンバーだが、この「大衆酒場」という古い表現が似合う「あおば」も即座に気に入ったようだ。

 気取らない店内で、壁面にはメニューが豊富に短冊でならぶ。アジフライ、鴨つくね、串カツ、ハムカツ、潮から、まぐろ 味噌焼き、竹輪揚げ、はんぺん、ヤッコ、イカ焼き、ナス焼き、もろきゅう、と200~500円以内の品がずらり。立石地区では一軒のメニュー数としては最大の店だと思う。昨年、出久根さんと、初めて立石にきた作家(吉岡さん、轡田さん)が『ここは良いね、一品ずつがポリームがあって、500円以内。料理が出てくるのが早い』と称賛していた。

 書評委員会・立石ツーは13人だった。さらには飛び入りでドイツ人・女性ジャーナリストと、通訳の早大女性教授も加わる。だれもが肩の力を抜いて飲める、大衆酒場だから、すぐさまなごやかな雰囲気にとけこむ。

 出久根さんの声がかりで、かつしか区民記者「かつしかPPクラブ」(浦沢誠会長)の男女メンバー6~8人がそれぞれ日中の仕事を終え、三々五々と「あおば」にやってきた。思いおもいに座る。

 同PPクラブの男女メンバーが加わり、立石の下町風情、気質、歴史などがごく自然にテーブルの中心話題になってくる。郡山PP副会長は酒が入り、顔を真っ赤にし、写真を撮りまくる。書評委員は著名人だし、「報道の自由」の朝日の記者だし、だれもが「個人情報」など、やぼったいことは一言も発しない。むろん、PPメンバーも。

 個人情報保護法はそもそもジャーナリストによって政治家のプライバシーが丸裸になる、それを嫌った政治家の先生が自分たちの私事を守るために、それを明文化し、国会にごり押ししてできたもの。その法律が世のなかで勝手に独り歩きしてきた。学校や社会の会・名簿などはまったく違法ではないのに……、一般市民のプライバシー保護で作らない、と勘違いされている。

 そんな小理屈や法律論は抜きにし、郡山さんは好き放題に撮影していた。

 2時間くらいで、次の取材があるからと言い、帰っていく記者もいる。結果として、延べ23人くらい(会計を引き受けた記者と、店主・ママさんしか、たぶん人数はわかっていないと思う)で、あおばはまさしに貸切同然になった。
 好きな酒をオーダーし、素朴な料理を注文し、それぞれが語りながら、楽しむ。ときには席を入れ替わる。同PPメンバーは柴又、水元、堀切、区内各地に住むから、話題は立石に限らず、葛飾全域に広がっていた。

 私と隣り合った、小野正嗣さんは『獅子渡り鼻』(講談社)で昨年の芥川賞候補になっている。「獅子とは何ですか」と訊いてみた。「鹿です。大分県にある、この岬から対岸に鹿が泳いで渡る、ところから名づけられたものです」と教えてくれた。同作品の内容はあえて訊かず、買って読んでみます、と留めた。

 私はむしろこの話から、20年ほど前に、奄美列島の種子島から馬毛島へ、鹿が海を泳いで渡り棲みついて繁殖している、と現地の人から聞いた。それを懐かしく思い出す一方で、同人誌に短編を書いた記憶がある。いまではタイトルも思い出さないけれども。

 小野さんは都内の大学でフランス文学を教えている。「学生は実に本を読まないし、リストを渡したら、押し付けられた、と一部から反発されるんですよ」と嘆いていた。この話題がまわりの書評委員に飛び火し、盛り上がっていた。

 夜8時で、ひとたび「あおば」を切り上げた。そして、立石の古本屋・岡島秀夫さんが馴染とする、スナック・「YOU」に出むいた。推定15人くらいがカラオケ三昧だった。さらに、ラーメンを食べに行った人、もう一軒飲みに行った人、それぞれ深夜の町に散った。

 この企画提案者の出久根さんから数日後、「朝日新聞社で、書評委員会がありました。立石ツアーの話題が出て、立石ではとても良い時間を過ごせたと好評でした。皆さんに喜んでもらってよかった」と電話を頂いた。出久根さんは、こんどどんなメンバーに声掛けするか、いまから楽しみの口調だった。

 朝日・書評委員会メンバーとして立石ツアーに参加した人たちは、きっと「葛飾・立石は、下町特有の雰囲気が残っている。いいぞ、いいぞ」と誰彼となく仲間を集って再訪するに違いない。朝日新聞の記者も多かっただけに、立石にきて独自取材し、記事にする人もいるだろう。      【了】


                                   写真:郡山利行

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