『安政維新』(阿部正弘の生涯) ③ 弱冠・満25歳にして老中首座(宰相)、そして死ぬまでの長期政権
阿部正弘は、弱冠・満25歳にして老中首座(現・内閣総理大臣)になりました。なぜ、そんなに若くして徳川幕府のトップになれたのか。賄賂をつかっても、なれる地位ではありません。第12代将軍の徳川家慶が、なぜ、若き正弘を大抜擢したのか。
阿部正弘が22歳の寺社奉行時代に、中山法華寺(市川市)の末寺・感応寺(豊島区)の僧侶と、大奥との癒着(ゆちゃく)という女犯(にょぼん)の罪を裁きました。
そらに、家斉いえなり)大御所の偽遺書による「将軍家乗っ取り事件」までも、見事に解決させたのです。
ここが歴史小説「安政維新」の書きだしになります。
目次紹介
第1章 女犯の怪しい寺
第2章 天保の改革
第3章 水野忠邦の失脚
当時は、外観内憂の時代です。外患とはアヘン戦争・植民地化の波が日本に押し寄せました。元寇以来の国難の時代です。
内憂とは天明・天保の大飢饉という、飢餓列島で過剰人口による食糧不足の時代です。それに対処した水野忠邦の「天保の改革」が、大失敗します。
それを引き継いだのが、満25歳の阿部正弘です。
第4章 十歳児のいのちを救え
第5章 前政権の断罪
第6章 ビットルの浦賀来航
ペリー来航よりも、7年も前に、アメリカ東インド艦隊が浦賀に来ているのです。ビッドル提督は、アメリカ大統領の親書を届けに来航したのです。
みなさんはこの事実を知っていますか。
第7章 嘉永文化
江戸時代に、もっとも華やかな庶民文化が花開きます。化政文化よりも、上回っています。ここらはこっけいな岡っ引きの目線で描いています。
思想弾圧をしなかった阿部正弘の人柄がよく出ています。
第8章 北の漂流者たち
冒険家マクドナルドが利尻島に上陸します。長崎に送ります。世界の潮流に乗るには、英語教育が必要だ。阿部正弘は、長崎通詞14人に、英語を学ばせます。
英会話ができる。優秀な人材が育つ。日本の近代化へのおおきな礎のひとつになります。
第9章 外国軍艦の出没
第10章 オランダ別段風説書
第11章 ペリー来航
ここまでが、作品の前半になります。
*
ペリー提督来航から、外圧を利用して、世界の潮流の資本主義に仲間入りを計ります。久里浜(神奈川県)で、アメリカ大統領の親書を受理させます。
阿部正弘は日本語に翻訳し、幕臣、諸大名、庶民にまでも意見をもとめます。 回答数は、700余通です。大名から・浅草の遊郭主までいます。
封建制度のなかで、「言論の自由」が行われたのです。なぜか。阿部は「挙国一致」で国難を対処する、「日本国」という考えを確立させたのです。
「あなたのお国は?」と問われると、武蔵野国、安芸の国、陸奥の国、長門の国です。日本列島を一つにした国家という考え方は殆どありませんでした。
阿部正弘は、日本列島を一つの国家とした最初の政治家です。
アメリカ大統領親書に対して、99%がペリー艦隊を撃ち払え、という攘夷主義でした。阿部は、700余通の上申書から、ふたりの意見を採用しています。ひとりは朝廷の実力者の鷹司正通(たかつかさ まさみち)(関白)です。
ご紹介しましょう。
『アメリカの書簡は慇懃(いんぎん)にして誠意がある。拒絶するべきではない。寛永(かんえい)以前は各国と通商し、わが国に利するところが少なくなかった。交通を許すも、国体(こくたい)を損じることはない』
孝明天皇・朝廷は外国嫌いだ、とみなさんは教わっていませんか。それからしても、明治時代の為政者や学者たちが歴史をねつ造しているのです。
もうひとりの意見は、まだ罪人(微罪の冤罪(えんざい)で町人の高島秋帆(しゅうはん)の「嘉永上書」です。
阿部正弘はこのふたつをもって開国・通商の道を決断します。
勝海舟の意見は開明的でしたけれど、具体策がない。ただ、人物としては使えると、阿部はかれを取り立てています。
徳川幕府は封建制度の世襲制で、胡坐をかく旧習に安住する幕閣・大名たちばかりです。斬新な事案をやれる勇気は並大抵のことではありません。
現在でも、社歴の長い大会社で700人以上が、新規事案に反対するなかで、たった、ふたりだけの意見を採用できますか。
歴史上、阿部のような大胆な判断を下す人物は百年に一度、二百年に一度でるか、出ないかです。人間として、途轍もなく、優れた人物です。
阿部正弘に関しては、難しい政策判断の評価はあれこれあれども、人物・人柄を悪く書いた史料・文献はほとんどありません。
備中福山藩は、賄賂を持って行っても、魚が腐っても、家臣がつき戻しに来る。もう、持っていくな。他藩の文献に、こんなエピソードが残っているくらいです。
阿部正弘は、金銭欲、強欲の面がなく、身綺麗でしたから、25歳から享年39歳(満37歳)まで、長期にトップの座にいたのです。
と同時に、阿部正弘に取って代れなかったほど、日本は国難でした。まさに、正弘の命は日本の命だったのです(松平春嶽の弁)。
『安政維新』は、勇気をもらえる歴史小説です。
【関連情報】
「穂高健一ワールド」における、『『安政維新』(阿部正弘の生涯)①~③は、引用は開放いたします。④、⑤も近日中に掲載します。
このシリーズは、著作権に関係なく、ご自由にお使いください。