晩秋の富士山麓で、想うままに撮って、わが心を重ねる ②
今夜の宿泊地は、山中湖畔のカントリーホテル「スターダスト」である。富士山とフランス料理が売りである。
一泊2食が1万1500円~である。満足度の割にずいぶん格安である。+アルコール代も加えても、リーズナブルなお値段だ。
かつて山仲間(可児さん)と、スターダストに一泊し、ちょうしに乗って酒を飲み過ぎてしまい、富士山の山頂への登攀がことのほか苦しかった。ふたりは登山ザックにワインを数本入れて担ぎ上げたけれど、二日酔いで一滴も飲めなかった記憶がある。
何年前か忘れたが、この山中湖畔の「スターダスト」に泊まり、白雪の11月の富士山に登った。パートナーは肥田野さんである。
ふたりは冬山ゆえに二日酔いを警戒し、ビールは1、2杯で控えた。そして早朝に、完全装備の登山姿で出かけた。
冬場は富士5合目までの路線バスなどない。裾野から自力で登攀していく。
単独峰に吹く風は強烈である。雪面は風で磨かれてツルツルに光るほど研磨されている。
転倒すれば、制動が利かない滑落となり、助かる確率は低い。まさに死に直結する一歩ずつである。
七合目からはもはや台風並みの風で、わたしたち二人の足を止めてしまった。酷寒の烈風はとうとう山頂まで近づけてくれなかった。二人は断念し、下山してきた。
スターダストでは、フランス料理の美食を摂ったあと、マスター(木村あずささん)が手品を披露してくれた。一つひとつに感激。見事な腕前だ。
もう10年くらい前になるかな。わたしは「山中湖ハーフマラソン」に出場した。そのときも、かれが上手な手品を披露してくれた。前泊の食後に、とてもリラックスできる好い時間がもてた。
そんな記憶がよみがえってくる。
林忠崇(ただたか・21歳)は、総国請西藩(じょうざいはん・千葉県木更津市・一万石)藩主だった。鳥羽伏見の戦いあと、旧幕府(徳川将軍家)を追いつめる新政府に反感をもった。
藩主の忠崇みずから脱藩し、藩士70名らとともに、旧幕府の遊撃隊に参加した。幕府海軍の協力を得て、館山から相模湾の沿岸に上陸し、小田原、箱根や伊豆などで新政府軍と激しく交戦する。
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このころ、芸州広島藩の自費出費で320人が参戦した「神機隊」は、上野戦争、飯能戦争のあと、会津にいく予定だった。ところが、江戸城の総督府・大村益次郎(長州藩)から、
「林忠崇のつよい遊撃隊が、最新型のフランス銃を装備したうえで、小田原から御殿場を経由し、甲府にむかっている。討伐してきてくれ」
と派遣を要請されたのだ。
懇願に応じた神機隊が甲府、さらには高所の三つ峠を越えて河口湖周辺(写真)まできてみた。さらに、山中湖まで足を延ばしてみるが、林忠崇たち遊撃隊の形跡がまったくなかった(忠崇は奥州戦争にむかっていた)。
神機隊は江戸城までもどってくると、総督府総帥参謀の大村に対峙し、
「がさネタで、無駄足をさせてやがって。わが神機隊は自分たちが集めた自費で参戦しているのだ。弁償しろ」
と上から目線で、六千両を脅し取っている。
毛利家祖の元就は、広島藩から戦国の雄になった武将だ。さらに、幕末・明治維新まで、芸州広島藩の浅野家(42万石)が、朝敵にもなった長州藩毛利家(36万石)よりも、つねに優位性を保っていた。
そんな背景から大村は、神機隊の隊員・軍備搬送として江戸湾から平潟(茨城県)まで、長州藩の軍艦までも貸与させられている。
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明治に入ると、元藩主の林忠崇は脱藩・反逆の罪で平民まで堕ちたうえ、極貧の流転つづきであった。実に、気の毒だ。
昭和12年(1937年)に旧広島藩主・浅野長勲(ながこと)が死去すると、忠崇が最年長の『最後の元大名』となった。
「スターダスト」を創立した元オーナー・木村忠さん(写真)は、大手の通信メーカーのエンジニアだった。38年前に、脱サラで、保育園勤務の妻・翠(みどり)さんとともに、山中湖にペンションを開業した。
技術屋さんが接客業とは、わたしの想像を超える。
「ここまでの38年間で、一番苦しかったのはいつですか」
おおかた、なれない経営の創設期だろう。
「一にも二にも、新型コロナのここ2年間です。創設期は若さから夫婦で懸命に働きました。子育てをしながら。それなりに口コミもあって、お客さんの確保ができて上向きました。しかし、コロナ禍は営業ができず、手の施しようがなかったからです」
ただ、山梨は全県民らの力で、新型コロナの新規感染拡大が徹底して抑えられてきた。その成果が生まれた今、ことし10月から中学生の修学旅行が入りはじめましたと話す。
妻の翠さんもかたわらで、
「山梨県は全国で3番目に、修学旅行の人気だと公表されています。やや灯りが見えてきた感じです、第六波のコロナ禍を想像すると、まだ心細い灯りですが」と語る。
明日はどこに行ってみるかな。
「いまはちょうどダイヤモンド富士で、カメラマンが大勢きていますよ」
カメラマンは小説の素材として興味がわかないしな。
「花が少ないフラワーパークも、情感があります。河口湖です」
そこがいいな。
さらなる候補先をいくつかあげてもらった。
『つづく』
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