小説家

29回「元気エッセイ教室」作品紹介

 今回は、「エッセイは何のために書くのか」と,受講生には一度振り返り、自問してもらった。それぞれにエッセイに取り組む、その意義、目的、思いなどは異なる。
「私自身のために書く」
 それは全員に共通するものだ。

 エッセイと日記との違いは明瞭だ。日記は自分自身が読むもの。エッセイは他人に読んでもらうもの。この違いは大きい。

 エッセイには読者に感動を与え、共感を得る、という目的がある。突きつめると、『この世に生きてきた、いま、ここに生きている』という姿を描き、他人に読ませるもの。それがエッセイの真髄である。

 エッセイと記事の違いはどこにあるか。記事は5W1Hで、より事実、史実のみを読者に知ってもらうことだ。書き手の感情や感覚を排除した、客観性が求められる。

 エッセイは主観で書くものだ。過去、現在、将来の一部を切り取って書きつづる。五感、あるいは全身で感じたこと、想いなどを読者にも同様に感じてもらうものである。

 今回の作品紹介は、作者の意図や狙いなどを中心においてみたい。『書きあげた作品は手を離れると、一人歩きをする』。読み手の考えと、作者の意図がまったく違うケースもある。それが前提である。

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28回『元気100エッセイ教室』作品紹介

 冒頭の30分は毎回、「作品作り」の基本レクチャーをおこなっている。届いた作品を一通り読んでから、講義する内容を決めている。
 今回は「比ゆ」を取り上げてみた。比ゆには大まかに2種類ある。

直喩
「あたかも」「さながら」「まるで」「ようだ」「みたいだ」で、表現されるもの。

隠喩】(比ゆだとはっきりわかるように、表面に出さない)
「眉は三日月」「黄金色の稲穂」「疲れたネクタイ」「落葉の船」という類である。


 比ゆは成功と失敗とに極度に分かれやすい。使う場合はしっかり吟味することが大切だ。比ゆが効果的だと、文章が光る。反対に、しっくりこない比ゆ、手垢のついた比ゆなどは作品の価値を下げたり、駄文扱いにされたりする。

 作品の評価を下げてしまう、比ゆとは。

① 手垢がついた比ゆ
「抜けるような青空」「海よりも深い愛情」「山のような大波」「りんごのような頬」「借りてきた猫のようにおとなしい」「鬼みたいに怖い顔」

大げさな比ゆ
「水晶のような瞳」「噴火口のようなニキビ」「心臓が破れたようだ」「冷酷な女だ」「透き通った肌だ」

 創作とは自分の言葉で書くもの、描くものだ。「比ゆ」も自分の創作であるべきだ。借り物の比ゆは、作品の価値を落としてしまう。


 28回目となる、エッセイ作品を紹介したい。今回は奇抜な題名が目立った。『爆弾のオミヤゲ』『墓場への近道』『ムール貝のバカ喰い』『ついてない』などである。こうした題名に出会うと、どんな内容か、と興味が深まるものだ。

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原作者・新津きよみさんが、フジTV系・連続ドラマ「トライアングル」を語る

 毎火曜の夜10時からフジ系列で、連続テレビドラマ『トライアングル』が放映されている。原作者は、人気推理小説作家の新津きよみさん。関西テレビ(大阪本社)が開局50周年記念のために、依頼した、書き下ろし作品である。

 日本ペンクラブ2月例会が2月16日、東京會館でおこなわれた。同会場で、新津きよみさんに、「原作者として、TVドラマ『トライアングル』をどう見て、どう感じているか」と直撃インタビューしてみた。広報委員会委員の鈴木悦子さんも質問に加わった。井出勉・事務局長代理も興味ぶかく聞いていた

穂高 「ちまでは評判の良い連続テレビドラマで、私の知り合いは家族全員で観ていますよ。いまは何回くらいまで進んでいるの?」
新津 「あしたの火曜日夜で、七編(話)です」
穂高 「何回くらい連続する予定なの?」

新津 「さあ? TV局から台本は貰っていないし、知らされてないの。『トライアングル』HPには未定と書かれているし、判らないわ。私が書いた原作はエピソード(事件)は6、7編(話)で消化されて、終っているけど……。その先は脚本家のオリジナルだから、どうなのかしら…?」
鈴木 「TVの連続ものは、ワンクールがだいたい10回か、11回なんですよ。だから、その辺りじゃないかしら」

 作家の手から原作(作品)が離れると、TV局と脚本家との打ち合わせで進められ、原作者にはフィードバックはないようだ。
             
            鈴木悦子さん(左) 新津きよみさん(中) 井出勉さん(右)

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第27回 『元気100エッセイ教室』作品紹介

 エッセイは日常の出来事を書く、歩んできた記録を書き残す。この二つが最も多いだろう。今回のレクチャーでは、この二つについて述べた。

「日常生活の一こま」や「身辺の小さな出来事」を素材に取上げ、読者を感動させたり、印象深い作品としたりする。それには素材の切り口が大切だ。


 常識の目で見、常識的な書き方は、読み手には退屈な作品になる。素材(対象)をやや斜(はす)から見たりすると、切り口がシャープで、新たな見方、新しい考え方の作品がうまれてくるものだ。つまり、些事な素材でも、読者にはおどろきやショックや感動などを与える作品になる。


 今回の提出作品から、素材の切り口や、その処し方などを中心にみていきたい。

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早乙女貢さん・お別れ会の夜

 直木賞作家・早乙女貢(さおとめ みつぐ)さんが、昨年末に死去した。早乙女さんは親戚筋が皆無なので、密葬は「士魂の会」メンバー8人でおこなわれていた。「お別れ会」が2月4日、18時から東京会館(東京・丸の内)9階の大広間で開催された。主催は日本ペンクラブ。参列者は会場一杯で、推定500人くらい。実に大勢で、早乙女さんの人柄が偲ばれる。

 生前親しかった佐藤陽子さんがバイオリンを2曲奏でた。会場に物悲しく流れた。

 日本ペンクラブ阿刀田会長が、「お別れのことば」を述べた。当クラブが2000人の会員という大きな団体になれたのは、早乙女さんの貢献が大である。阿刀田さん自身も早乙女さんの推薦を受けて入会したという。「ペン会員の10分の1は、早乙女さんの推薦ではないでしょうか」と述べた。

 日本文藝家協会を代表して伊藤桂一さん。1955年のころ「泉の会」に所属し、伊藤桂一さん、尾崎秀樹さんらと同人誌「小説会議」を創刊した仲間である。その後も長い付き合いだった。早乙女さんは無宗教だったが、「私は寺の息子であり、けさは般若心経を唱えてきました」と明かす。
 早乙女さんが『会津士魂』で吉川英治文学賞を受賞した。選者のひとり伊藤さんは、その作品とともに、作家魂を高く評価した。

 菅家(かんけ)一郎・会津市長は、「戊辰戦争から140年目に、早乙女さんが亡くなられた」と歴史的な流れから述べた。会津は官軍からは朝敵にされた。早乙女さんが会津藩の武士魂を世に知らしめてくれた。「早乙女さんは会津の誇りです」と結んだ。

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尾道の旅情と志賀直哉の旧邸を訪ねる

 1月13日の朝、夜明け前に尾道駅に立った。私は幼いころ父に連れられて尾道魚市場に何度もきたものだ。朝の薄暗い時間帯に、セリの声が響いていた。市場の一角で、温かい中華そばを食べさせてもらえた。魚介類の出汁だけに、たまらなく美味しかった。いま流行する尾道ラーメンのルーツかもしれない。


 駅付近で、魚市場の所在地を聞いてみた。だれもが首を傾げた。思い出深い魚市場は既になくなったようだ。

 尾道水道は向島との狭い水路で、フェリーボート、小型ボート、貨物船、漁船などのさまざまな船が行き交う。対岸の造船所では、大型の鋼船が建造されている。
 タワークレーンから夜明けの陽が昇ってきた。シルエットが水面に映る。船舶との陰影の組み合わせは情感豊かなものだった。

 魚市場がなくなった尾道港だが、海岸線は整備された、気持ちの良い散策道が続いた。右手には尾道城が見える。私が幼い頃にはなかった。(1964年に観光目的で築城)。

 尾道といえば千光寺だ。尾道水道と向島が一望できる、風光明媚なところ。両親に連れられて、千光寺の桜を観に来たものだ。桜がなくても、冬場でも、最上の景色だと知る。そちらに足を向けてみた。

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第26回 『元気100エッセイ教室』作品紹介

 今回のレクチャーは「素材の切り口」について説明した。

 作品の評価の中心は、文章力と素材だ。どちらが重要か。載せる媒体によって違う。「ともに甲乙付けがたい、ともに重要だ」、というのが明快な答えだろう。


 エッセイはどこまでも読者を相手にして書くもの。自分を相手にして書く日記とちがう。同じ素材でも、作品化されたエッセイは、作者によって切り口がちがうものだ。それが作者の個性だ。

 文章力は、良い文章を読んで、真似て、より多くの作品を書くことで磨かれる。と同時に、「省略」と「書き込み」が重要である。
 素材の処し方は感性もある。それ以上に、常にシャープに切り取る、という意識が大切だ。

 鋭い切り口(シャープ)とは具体的になにか。
「そういう見方があるのか」
「そういう考え方もできるのか」
「なるほどな、面白い捉えかたもあるものだな」
「へぇ、そんな体験があるんだ」
 と読者を感心させたり、うならせることだ。


 今回の提出されたエッセイは、味のある作品、目を引く作品が多かった。豊かな人生経験のうえに、創作技量の向上があるから、作品に深みや厚みが出せているのだ。
 全作品を一つひとつ紹介したい。作品の素材をメインに紹介するために、部分抜粋を中心においてみた。

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第25回 『元気100エッセイ教室』作品紹介

 今月のレクチャーは、「味のある文章で、エッセイを読ませる方法」という、前回の続きだ。
 日常些事なエッセイでも、読者を魅了させる名文が生まれる。読む人に深い感銘を与えられる。それには表記することばが正しくて、「この一行は考えられているな」と読者に思わせることだ。そのコツを身につけるために、と具体的な学び方を示した。

 ・感情表現(怖、好、厭、昂、安、驚など)の喜怒哀楽の語彙を増やす。

 ・類語を上手につかう。

 ・反対語とか、反復とか、対比とかの言葉を組み合わせる。

 ・名文章家の作品で、「うまいな」と思ったら書き取っておく。使ってみる。

 『名文は一夜にしてならず』と説明した。


  10月度の作品は、日常生活から選んだ素材で、切り口の良い作品が多かった。失敗談から、本人は真剣だから随所にユーモアを感じさせる。それら作品に出会えると、読み手に一服の憩いとなる。

 幼い頃、青春時代に戦争と関わった世代には、心に戦争の陰が残っている。それらがモチーフになった作品も幾つかある。書くこと自体が記録として価値ある作品となる。

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第24回 『元気100エッセイ教室』作品紹介

 30分間レクチャーでは、「味のある文章の書き方」を取り上げた。日常些事なできごとでも、味のある文章ならば、上質のエッセイが生まれる。それには月並みな表現から一歩踏み出し、工夫した文章、シャレた文章を挿入することである。

 読者側に立てば、「この一行、この文章は考えられているな」と思わせることである。それが強い印象に結びつく。

 5項目を意識すれば、作品の奥行きや幅の拡がりにつながっていく。
  ①直説法のみでなく、間接法で表現してみる
  ②1、2ヶ所は倒置法を入れてみる
  ③動植物には、擬人法を取り入れてみる。  
  ④比喩は他人が使っていないものを使う。
  ⑤自然描写では、一つセンテンスのなかに類似したものを並べる
  受講生が実際に①~⑤を文章に落とし込むために、『演習問題』を課した。

 今月のエッセイ提出作品には、日常些事なできごと、動物を素材にしたものが多かった。人生では、途轍もなく大きな出来事に遭遇する。それが毎回エッセイの材料になるほど、豊富ではないはずだ。
 人生とは日常の積み重ねだ。日々の小さな話題、出来事を上手に仕上げられる。磨かれたエッセイとして書ける能力。それがエッセイの力量を判断する一つになる。

 14作品を読んでみると、磨かれたエッセイの方向に確実に進んでいる。また、一段あがったな。それを感じさせる作品が多いので、指導者としてはうれしいかぎりだ。

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長編ミステリー『心は翼』は最終回。少女誘拐犯が証拠隠滅を企てた。

『TOKYO美人と、東京100ストーリー』の第3作・『心は翼』が7回の連載で、最終回を迎えた。400字詰め原稿用紙で、約400枚の作品である。
 脱稿したいま、この作品の創作前後にふれてみたい。


【マドンナについて】
 モデルの方々にも、企画に参画してもらって入る。マドンナの名まえとか、職業などを決めてもらう。写真の撮影場所なども。

 書き手としては好きなようにシチュエーションを選べない、ストーリーを好き勝手に運べない、という制約を自分に課すことになる。知らないことが多いと、取材が多くなる。
 他方で、どんな作品が生まれるのか、作者すら予想ができず、未知への創作の楽しさがある。

 写真モデル・森川詩子さんから、マドンナの名まえは「夢子」で、詩人で、ファンタジー小説という希望が出された。ファンタジーは、私にとって新しいジャンルだ。3回連載を想定したうえで、3ヶ所の撮影をおこなった。六義園、旧古河庭園、明治神宮などである。

 撮影後のおいて、変更はいつでも、OKだよ、と森川さんには伝えておいた。「鴫野佐和子・しぎの さわこ」という名の変更があった。佐和子となると、純日本的であり、ファンタジー小説として似合わない。ミステリーに切り替えた。そのうえで、私の得意とする「山岳小説」の土俵で展開することに決めた。


【詩人について】

 詩集は本ものを使いたかった。旧知で、3、40歳代のころともに学んだ、詩人の小林陽子さんにお願いした。いま長崎在住の彼女は、「わたしの詩で、どんな小説ができるのかしら。お手並み拝借」と揶揄もあった。

 作品集が送られてきた。詩の全文を掲載すると、小説が間延びするので、部分抜粋とした。むろん、修正はしないことが条件だ。


【作品のあらすじ】
 蓼科スキー場で、5歳の女の子が誘拐された。所轄の警察署は山岳遭難扱いだった。事件は表に出ないまま、20年の歳月が経つ。時効が成立している。

 元大使の娘で、詩人の鴫野佐和子の記憶から、2週間の軟禁場所は八ヶ岳の主峰を越えた、標高2400メートルの冬季無人の山小屋だった。蓼科からだと、ベテラン登山者でも最低2日間はかかる。雪峰が吹雪けば、さらに日数を要す。犯人はどのように5歳の少女を連れ去ったのか。

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