『幕末歴史小説を語る』(下)=葛飾鎌倉図書館で、講演
明治時代から77年も軍事政権がつづいた。が、昭和20(1945)8月15日の無条件降伏で終焉(しゅうえん)した。その実、昭和天皇の決断で、軍事国家は終了した。
もし、昭和天皇が断を下さなければ、「日本人・全員の玉砕(自決)」と声高に叫んでいた軍部に引っ張られただろう。米軍の空爆で廃墟になった日本領土。そこに欧米連合軍が日本列島に上陸し激しい戦いを展開していただろう。狂気の戦場となり、双方の犠牲者数は想像がつかない。
薩長の下級藩士が明治初年に権力欲で天皇を利用した軍事政権を作りながら、最後は尻拭(しりぬぐ)いができず、天皇にすがって終焉した。この事実はだれもが消すことはできない。
こんな悲惨な77年に誰がした。私はあえてなんども叫ぶ。『薩長の下級藩士が英雄気取りで軍事国家をつくったからだ』と諸悪(しょあく)の根源(こんげん)をそこにおく。
1600年の徳川政権樹立から、2015年までの約400年余のスパンでみれば、許されない77年だ。もう維新志士だと、かれらを英雄扱いにするのは、作家も市民も止めようではないか。そんな気持で、講演で語らせてもらった。
400年中の77年の戦争国家は異常である。怪しげな「明治維新」という言葉をもういちど疑ってみよう。江戸時代の長期の鎖国後の、開国から西洋文化が導入されて、政治・経済・文化が根底からすっかり変わった。
『安政維新』が最も正しい表記である。
当時の文部官僚が作った「明治維新」は、やがて修正されて歴史から消されていくだろう。
私たちはなぜ歴史を学ぶか。日本人が歩んできた過去を正しく知り、将来の指針にしていく必要があるからだ。
415年のスパン(歴史の範囲)で見れば、日本人は338年間も、戦争のない国を支えてきた。災害列島でも、日本人は助け合って平和に生きてきた。世界を見渡しても、77年を除けば、戦いを好まぬ稀有な民族だ。
戦後70年は戦場で一兵も死んでいない事実を大切にしながら、この先も、平和国家を一年ずつ更新し、未来に向けてさらに伸ばしていく。
「それが歴史から学ぶことです」
と私は心から語った。
写真:滝アヤ
【了】
関連情報:幕末歴史小説『二十歳の炎』
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