「広島藩の志士」がベストセラーに、「広島郷土史」の教育の礎になるか
広島県下の学校教育には、江戸時代をふくむ郷土史がない。広島、呉、竹原、大竹、瀬戸内の島嶼(とうしょ)部の小中学校において、生徒は「郷土史」を教わらない。
「歴史を知る。遠き過去を訪ねて、わたしが明日に働きかける行為である」
「郷土史とは、郷土愛と郷土の誇りを育てる土壌である」
郷土史を教わらない義務教育は、異常な現象で、恥ずかしいかぎりである。
1945年8月6日に悲惨な原爆投下があったにしろ、被災地は中心部から10キロていど。広島県下全体でみれば、江戸時代から明治時代の政治、経済、産業、文化、庶民生活などの史料・資料は広域に残存する。
その気でさがせば、いくらでも歴史関連資料はあるはず。それをなぜ怠っているのか。広島県下で、なぜ郷土史を教えないのか、と私は疑問をもって育ってきた。
しかし、広島県下でも福山地区はちがう。かつて備後の国である。水野家が備後福山を拓いた、と福山の小学校では、郷土史を教わる。
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原爆後の被爆教育、平和の願い、その教育行政だけでは、広島の子どもは歴史視点から将来を見渡せる人材にならない。もっと真剣に、江戸時代からの広島の郷土愛を育てるべきだ。
「長崎には歌がいっぱいある。広島にはまともな歌はない。なぜか」
長崎はこぞって歴史を大切にしているからだ。長崎は原爆の被災もある。だが、江戸時代からの出島、長崎奉行所、オランダ坂、グラバー邸、長崎造船所など諸々の歴史を庶民が愛着を持って大切にして語り継いでいる。そこには郷土の誇りもある。
「歴史は情感をつくる。その情感が詩になる。歌になる」
長崎の鐘、長崎は今日も雨だった、長崎ブルース、~、
広島は被災後の平和教育だけである。論旨的な核廃絶という平和だけでは片手落ちだ。これでは郷土への愛着や情愛が薄い。「広島は今日も雨だった、カープの試合が流れた」となると、歌にはならない。
100年後の人材を育てる。それには、広島は歴史を100年、200年にさかのぼり、現代を捉える、そして未来を見通す教育をおこなう。
そこから、生徒たちに広島が抒情、情感的に愛され、歌が生まれて、名曲となり、歌い継がれていく。
「現代の広島人は、幕末・維新に無力感を持っている。残念ながら、原爆前を知ろうとしない。現代と過去(歴史)との意志疎通ができていない」
広島で、私はくり返し講演し、幕末研究会などで、そう語っている。一方で、「広島の小中学で、江戸時代をふくめた郷土史を学べる、教育の場をめざそう」と訴えてきた。
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「教育は100年の計」だから、教育行政トップから教壇に立つ教職員までが、前向きに、積極的に、江戸時代・明治時代から戦前の歴史・知識を取りにいく。その努力が必要だ。
それがないがしろにされると、生徒らには広島の政治、経済、文化、風土を教えられない。なにしろ、教員自身が郷土の歴史を知らないのだから、教えられるはずがない。
そこで教職員が、「芸州広島藩」といわれた時代からの歴史に興味を持ってもらう。そのためには、作家の私が広島を舞台にした歴史小説を書くことだとおもった。より事実に近いところで。
「二十歳の炎」(芸州広島藩を知らずして、幕末史を語るなかれ)を世に出した。売れたのは広島でなく、おもいのほか、首都圏で好評だった。(薩長史観が東京(德川・江戸)では煙たがられていた面もある)。ただ、同書は5刷で、出版不況からクローズとなった。
出版社が閉鎖すると、その本は暴落するのがふつうである。
ところが、『二十歳の炎』は、絶版本として、いっとき3万円台(アマゾン・中古)にまで暴騰した。これでは同書を読みたい人が読めない。読めないことは、幕末・芸州広島藩が闇のなかに歴史から消えてしまう。
私は手持ち在庫とか、カルチャーセンターに委託しカウンターで販売している「二十歳の炎」をかき集めた。そして、アマゾンの中古市場にながした。いっとき4-5000円台まで下がった。ところが、またしても8000円から数万円を行き来する。そこで、私は中古市場の冷却を諦めた。あらためて再版してくれる出版社をさがした。
そして、今回の広島・南々社「広島藩の志士」(倒幕の主役は広島藩だった!)の出版となった。
数多くの教職員が目にしてくれる。それには、文化の発信の場を提供してくれる書店の協力が大きい。感謝したい。
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東京・広島の複数の出版社が、これは良書だと言い、手を挙げてくれた。「広島のひと、広島の教職員には幕末の広島の歴史を知ってもらいたい」。この面と広島・南々社の熱意から、同社に新装版を決めさせていただいた。
タイトル「広島藩の志士」(倒幕の主役は広島藩だった)と決まった。
日本ペンクラブ・吉岡忍会長には読んでもらい推薦を書いてもらった。
吉岡さんは物事の核心をわかりやすくズバリ言い当てる名人だ。
過去には日航ジャンボ機墜落、東日本大震災、その災害・戦争、各問題点の核心をズバリ単文で言いきっている。じつに的確だ。
「この本はとても良いよ。読みやすい。『発見、賞賛、大胆、驚嘆!』ボクがこれ以上、文字をつかうと、帯が狭くなるだろう」と最小の表記にされた。
「謝礼などするなよ。穂高とは友だちだろう」とも言われた。
東北大震災では、ふたりして被災地をまわり、数日間は3食をともにし、浴槽で問題点を語り合った仲だ。それに甘えた。
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西元社長が、「まえがき」と「あとがき」と本文を読んで、「倒幕の主役は広島藩だった」にまでキャッチを絞り込んだ。吉岡さん、西元さん、的を得ていると思った。
3月12日に、南々社が新装版「広島藩の志士」を出版してくれた。中国新聞の一面下にも大きく広告を載せてくれた。
広島市内を中心とした大手書店が、「幕末の広島を知ってもらうためにご協力しましょう」と積極的に、大々的に平台に展開してくれている。
ジュンク堂広島駅前店で、ベストセラー「文芸」第1位で、総合7位だった。
4月3日(火)にも、南々社が中国新聞にも広告を出してくれた。「販売即ベストセラー」のキャッチを見て、教員の方々も読んでいるのだろう、と手応えを感じた。
教育関係者たちが、歴史を知れば、やがて「広島に郷土史の教育現場をつくろうよ」と盛り上がりになっていく可能性につながる。そういう希望がみえてきた。