A020-小説家

世界における日本文化=近藤誠一(元文化庁長官)(下)

 日本P・E・Nの九月度例会における、・ミニ講演は元文化庁長官の近藤誠一さん(PEN会員・1946年生まれ)で、タイトルは『世界における日本文化』である。


 近藤さんは日本文化の3点を強調した。

①自然観
②曖昧さ(白黒をはっきりさせない)
③眼に見えないものに価値を見出す。

 近藤さんは2番目の『曖昧さ』について語った。

 日本の文化では白でも黒でもない、曖昧さが『間』の表現になっている。余白は単なる書き残しではない。空白に意味がある。その曖昧さには包容力がある。
 悪人にも良い点がある(蜘蛛の糸・芥川龍之介)。善人にも悪い点がある(義経勧進帳)、という考え方である。

 日本で世論調査を行えば、おおかた中間的な意見か、真ん中が大多数になる。しかし、欧米は右か、左である。日本は約2000年間にわたり異民族に支配されたことがない。それらが背景となり、「白でもない、黒でもない」その中間が存在する。

『日本人は眼に見えないものに価値を見出す』
 その点では、相手の心がわかる、という点を強調した。

 夫婦の間をたとえに出す。外国人の夫婦は毎日、「愛している」とたがいに確認する。言い忘れると、相手は嫌いになったのだと決めつける。
 日本人は「好きなの、嫌いなの」と言葉で求めれば、それは野暮だと捉える。日々の生活をみていれば、愛のことばは必要がないし、言葉による確認がなくても、苛立つこともない。
 とかく欧米人にはこれがわからないらしい。

「富士山は人間が作ったものではありません。でも、世界文化遺産に登録されました。自然遺産でなかった。ここに日本文化の特徴があります」
 近藤さんは、文化遺産を強調した。
 世界自然遺産の場合は、地理学的、生態学的に、その自然を残す必要があると認められたものだ。


 富士山がなぜ文化遺産か。日本人が万葉の時代から詩歌に詠い、広重が描く絵画なども含めて、多くの芸術を生み出されてきた。日本人の美意識(インスピレーション)と卓越した文化が世界に評価されたからである。

 これまでとかく近代化と一致しないからと言い、曖昧さが否定され、眼に見えないものにたいする価値がおなざりにされてきた。欧米風に物事を見るゆえに、日本人が自信を喪失した面がある。

 日本人の文化は、「安全、清潔、豊かな心(人間がやさしい)」から生み出されている。世代を問わず、日本文化に自信を持ち、『相手の心がわかる』という価値を大切にし、良い文化を推し進めたい。それを子供たちに伝えていく。みずから良い文化の国をつくる行動をとりましょうと、近藤さんは結んだ。

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