A020-小説家

第67回・元気100エッセイ教室 = テーマの絞り込みについて

 叙述文(エッセイ、小説)を書き慣れていない人は、「これは面白いネタ(素材)だ」と思いついた、着想の段階からすぐ書き出してしまいます。
 着想とテーマとが混同し、その違いがわかっていないからです。

 「どんなテーマで書かれるのですか」
 そう問うと、ストーリーを説明する人が実に多いのです。テーマとはなにか。それ自体がわかっていないからです。

「わが娘の結婚が決まった」
 それを書こう。この段階はまだ着想です。着想から書き出すとどうなるでしょうか? 
 勢いよく書きはじめたものの、途中で止まってしまいます。書いては改め、あらためては書く。またしても、書き直す。
 こうした試行錯誤の繰り返しで、無駄な労力が多くなります。最悪は途中で、放棄です。できあがりは不統一で、読者に充分に理解されない作品になります。

『テーマとはなにか』
 どのようにテーマを決めるべきか。作者として、たとえば「娘の結婚の」何を言いたいのか。作者の「私」は何を主張したいのか。
 この結婚はなにが問題なのか。声を出して言いにくいことは何か。それらを突きつめていくと、最も重要な事柄にたどり着きます。それを取りだせば、テーマです。

 テーマは一言で短く。それが大原則です。
 最も解りやすいのが、『結婚は人生の墓場だ』。これを考えた人は、結婚式の喜びだけでなく、その後における男女の立場で、結婚生活から人生を突き詰め、深く絞り込んでいった結果、たどり着いた結論です。
 これがテーマの絞り込みです。

 テーマが決まれば、そこから筆を取る。テーマに対して素材の肉付けをしていけばよいのです。テーマが明瞭なほど、材料を次つぎに注ぎ足しても、ごく自然に作中に吸収されます。そして、テーマがエンディングに書き記されます。

『結婚は人生の墓場だ』
 これならば、テーマがしっかり絞り込まれていますから、夫婦喧嘩からでも書き出せます。蜜月の新婚の回想でも、離婚の調停の場でも、どんな素材でも受け付けてくれます。
 エンディングで、主人公が一言「結婚は人生の墓場だ」と呟けば良いのです。

【テクニック・コツ】

① 書き出す前に、題名をテーマにしておく。たとえば、仮題『結婚は人生の墓場だ』としておくと、次々と新たな素材、人間関係が吸収されていきます。

② テーマが絞り込めない。初稿を思うままにさらっと書いてみる。エンディングの数行から、作者が最も言いたいことをさがす。一言で言えるもの、それがテーマです。
 短い言葉で言い表せる・テーマが決まれば、最初の一行からあらためて書出す。そうすれば、テーマが統一された作品に仕上がってきます。

③題名、テーマ、結末の数行、この3つがリンクしていれば、完成度の高い作品になります。

 エッセイでも、小説でも、創作の途中で、何度もとん挫した経験・体験が多い人は、まず「テーマ」とはなにか、それ自体を会得することです。そうすれば、最後まで書き切れる力が備わってきます。

 事例研究

 穂高健一著 小説3・11「海は憎まず」はテーマをしっかり絞り込んだ作品です。作品の冒頭、第1ページから、『文学は災害に対して何ができるのだろうか』と主人公が荒涼とした、大津波の被災地の風景のなかで、自問します。
「これを取材テーマにしよう」と決めてから、岩手県、宮城県の災害現場に入っていくのです。寡黙な東北人に対して、初対面ながら、次つぎに本音を語ってもらう。きびしい環境の個々人のドラマを掘り下げていく内容です。

「3・11大津波の被災地から、なにを教訓とし、なにを後世に伝えるべきか」と、主人公(私)が作品の冒頭から「テーマ」を持ち出した、とてもわかりやすい作品です。
 テーマが明瞭ですから、被災地のどんな人間ドラマでも軽重に関係なく、作品のなかでごく自然にとけこめるのです。
 被災後から1-2年経ったいまだからこそ、かれらが打ち明ける、陽気なエピソードでも、心の傷でも、ねたみでも、暗い差別の話しでも、「これは数十年後、百数十年後でも、後世の人の教訓となるな」と思うと、作品が難なく吸収してくれるのです。
 

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