A020-小説家

第60回・元気100エッセイ教室=漢字の巧い使い方、こだわり方

 エッセイ教室が60回を迎えた。8月と12月を除いた、年10回の講座であり、ちょうど丸6年間つづいてきた。ロングな講座になったものだな、とある種の感慨がある。と同時に、毎回9割以上が提出であるだけに、意欲に満ちた、熱心な受講生ばかりである。
 この講座を受け持った6年前のことだった。事務局から「元気に百歳クラブ」の首都圏エリアには130人余りのうち、107人がパソコンができます。エッセイ教室はメールで作品を送れる人に限定したい、と提案された。生原稿を読むのは負担がかかるので、ありがたい、と思う一方で、知的レベルが高いな、と驚かされたものだ。
 政府がIT国家の旗を振り始めて間もないし、60歳代以上のパソコン拾得者は皆無に近いと言われていたころである。
 他のカルチャー教室では、とかく「作品が書けない、書けなかった」と未提出者の言い訳をする人がいるものだ。「書けない理由はいくらでも簡単に見つかる。つねに、書ける素材と、書く時間を見つけなさい」と聞く耳を持たない態度を取ってシャットアウトしている。

 このエッセイ講座では、それが一度もない。ともかく、海外など行く、特殊な事情を除いて、全員が提出してくる。  レクチャーの実践的から、毎回、事前に「演習」を出している。『宿題ではありません』と記しても、全員がやってくるので、もはやその明記も止めた。
 全員が熱心に60回まで、推し進めてきた。まだまだ創作意欲に満ちている。

 今回は、「漢字の巧い使い方、こだわり方」について、講義をおこなった。
 
 エッセイは文学ですから、作者の表現・表意が優先されます。教科書の記載とおり、文部省が決めた「常用漢字」にこだわらないことです。と同時に、エッセイは漢字の難易度を競うものでなく、内容を味わうものです。

 漢字は1文字ずつ長い歴史で培われた、深い意味が含まれています。とくに動詞においては1文字ずつ漢字の用法に留意していくと、作品に味わいが醸し出されていきます。

①「診る」「観る」「視る」「看る」「覧る」「見る」
  医者が身体を診る。それ以外は、当用漢字で「見る」で統一されています。これではエッセイの味と深みが出せません。
 老後を看る(看病)、パレードを観る(観閲式)、各地を視てまわる(視察)
  内容に最も適した漢字を使いましょう。
 ②「作る」「造る」「創る」を使い分ける
  米を作る(耕作)、文章を作る(作文)、エッセイを創る(創作活動)、学校を創る(創立記念日)、船を造る(造船所)、貨幣を造る(造幣局)
  関連づける漢字の熟語などに置き換えてみると、すんなり判るものです

③「逢う」「会う」「逢う」「合う」「遭う」
  彼女に会う  → 彼女に逢う  (恋い焦がれる雰囲気が出ます)
  彼と道で会う → 彼と道で遇う (思いもかけずに、偶然に出くわした)
  むだな説明が不要になり、簡素にして作者の想いが描けます

③「写す」「映す」「移す「遷す」
  カメラで写す(写真)。スクリーンに映す(映像)。都を遷す(遷都)
  同音でも、ここらは間違えることができないところです。

④風邪をうつす(感染) → 風邪を染(う)つす 
  造語の場合は、ルビを振ってください。

⑤「取る」→ 「撮る」「録る」「採る」「捕る」「執る」「摂る」「獲る」「穫る」
  使い方に迷ったら常用漢字にするよりも、「ひらがな」にしてしまう。これもコツです。


       撮影:滝アヤ

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