A020-小説家

第59回・元気100エッセイ教室=テーマの見つけ方

テーマとは何か。

 エッセイ、小説のみならず、写真にしろ、絵画にしろ、テーマが重要です。これが曖昧だと、作品に強さや求心力に欠けてしまいます。
『テーマとは、作品のなかで作者の最も言いたいことである。一言で言い表せるもの』
 その定義にたどり着くまで、私はかつて約10年間を要しています。

 私は腎臓結核で28歳から闘病生活に入りました。寝床で本ばかり読んでいても面白くないし、寝ながら何かできることはないかな、と漠然と考えていました。
 30歳ごろ、寝ながら小説のストーリを考えれば、病気から気持ちが外れるし……。小説でも書いてみようかな、と思ったのです。

 私は港町に生まれ育ちました。中学生時代は船員相手の貸本屋から大衆小説を借りてきて片っ端から読んでいました。
 父は元教員で、「学校の勉強は家でするな」という主義でした。学校で先生の話をしっかり聞いて、それで試験を受けたら、それが本当の実力だ。(若いときは教室で集中力を養えばよい)。各学期の試験勉強も、宿題もさせてもらえなかったのです。

 ある時、部屋で宿題をしていて見つかり、戸外に連れ出され、バケツの水を頭からぶっかけられたこともありました。それだけは徹底していました。いまとなれば、記憶力、集中力の寄与になったのかな? と思うこともありますが、学校では宿題をやらない学生で、教室の後ろとか、廊下とかに常に立たされていました。

 私は小遣いで毎日、、貸本屋から数冊ずつ、本を借りてきて、乱読です。大衆小説、時代小説、サラリーマンもの、ミステリーには決まって艶のある文面があるし、思春期の私には好物でした。卑猥な本を借りてきても、父は読書に対して何ら口を挟みませんでした。(それがストーリーづくりに役立ったのだしょう。現在でもストーリーで苦しむことは殆どありません)。

 30歳の独学のスタートとして、基本勉強だと思い、「小説技法」「文章読本」の類を読むことからはじめました。丹羽文雄、三島由紀夫、野間宏、井上ひさし、川端康成、どの本にも、テーマ(主題)は大切だと書いています。とたんに、テーマという言葉がよくわからなくなったのです。

「テーマを決めて書きなさい」
 そう述べている項目を見て、
「テーマってなんだろうな?」
 と考えるほどに、頭のなかが混とんとしてきました。テーマとは入江を航行する、進路のようなものかな、海図かな、羅針盤かな、と迷いに迷いました。
 やがて、私の恩師となった伊藤桂一さんにも「テーマ」という言葉がわからないんですが、執拗に質問したものです。

 約10年間はひたすら、テーマとは何か、で苦しみました。


 いまや小説、エッセイを教える身になっても、「テーマ」の項目になると、思わず構えてしまいます。どう説明したら、ストレートに解ってもらえるだろうな、と考えてしまうのです。
 
 テーマが定まらない作品は、思いつきで、ダラダラ書いているものです。この作者は何を言いたいのかわからない。冗漫なところが多い、という酷評になります。と同時に、読者が見限り、放棄してしまいます。

『あなたは何を書きたいのですか』
 そう質問すると、多くの人は書きたい話の内容(ストーリー)をしゃべれても、書く上で重要なテーマとなると、覚束ないものです。

【事例研究】

『前々から書きたかったもの、突如としてひらめいたもの、印象深かったもの』それが次の例文だったとします。

①「台風の接近で客船が大揺れし、船酔いするし、大変な旅だったの……」
  
         → 作品化するとすれば、テーマは何ですか

②「エスカレーターで転倒して、救急車で運ばれて、太ももを7針も縫ったのよ……」

          → 書きたいテーマは何ですか

③「奥州路を歩いていたら、古寺の八重桜が綺麗で、とても感動したわ。それを書きたいわ」

           → 明瞭なテーマはありますか

 このように、書く段になってもテーマは決まっていないものです。それが普通です。私は10年間悩んだ結果、一つのテクニックを発見しました。【コツです】

 一度力を抜いてラフに、初稿を書いてみる。最初の一行から、文を上手く書こうとするなど、できないことです。ほとんどが途中で、息切れし、筆が止まります。

 初稿は途中でストーリーが乱れても大丈夫です。ともかくラストまで書き進むことです。強引に書き進むと、最後の数行から、作者が最も言いたいことが見えてきます。それがテーマの発見です。
 
 次なるは、「テーマの絞り込みです」。一言で言い表せる言葉に絞り込むことです。これが長いと、ストーリーの説明になります。あくまで、短く一言です。

【事例のテーマ】

①死の恐怖心は個人差がある

②夫のいたわりは新婚まで

③目で見た感動は三日で忘れる


 このようにテーマが決まったら、今度は落ち着いて2稿として書けば良いのです。作者の言いたいテーマに向かって、無駄もなく、迷わず、一直線に書けます。

 2稿が書き終われば、テーマとリンクする題名をつければ、最上の作品に近づけます。
 
  10年間悩んだ結果は、「テーマを決めて書きなさい」という指導は間違っている。「はじめからテーマがわかって書くことは不可能に近い」。初稿は荒書(荒削り)で書く。これがテーマ発見の最大のコツである。
 初稿とはテーマの発見に尽きる。そういうものだ割り切れると、一気に創作力がアップしてきます。

 

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