【推奨・図書】いまこそ私は原発に反対します。=日本ペンクラブ編
私は昨年末、吉岡忍さん(作家)と、ある大学構内で、ふたりして3.11を語っていた。その折、吉岡さんが、日本ペンクラブ(浅田次郎会長)編の原発関連作品の締め切りが迫っていると言い、「老人と牛」のストーリーの一部を語っていた。
同クラブから、12年3月1日に『いまこそ私は原発に反対します。』(平凡社、1800円)として、発刊された。PEN会員52人が執筆している。編集責任者は同クラブ・編集出版委員会・森ミドリ委員長である。
短文、短編、詩歌もありで、とても読みやすく、読者が自分の好きな作家の拾い読みをしただけでも、脱原発の声がじわーっと伝わってくるものだ。
現代の出版は、売れる作品が優先する、コマーシャルイズムに影響されている。同書に掲載された作品は、編集者や出版社に媚(こ)びた内容ではないし、それぞれが作家精神まるだし。思想信条の自由という点からも、現在には数少ない出版物だろう。
副題を列記しておくと、
・「今日のあなたへ、明日のあなたへ」
佐々木譲『Rさまへの返事』他3編
・「紡がれた物語」
阿刀田高『笛吹き峠の鈴の音』 他8編
・「うたう、詠む、訴える」
アーサー・ビナード『ウラン235』 他7編
・「深部へのまなざし」
雨宮処凛『泣いているだけじゃダメなんだ』 他8編
・「語り伝えること」
浅田次郎『記憶と記録』 他20編
※長いタイトルの一部は割愛があります
私はいま現在、3.11の小説取材をしている。(同書に執筆していません)。関連作品を読んで影響されると嫌なので、昨年来、新聞を含めたほとんどの書物に目を通していない。そんな理由で、同書を入手したが、書棚に置いていた。ところが、早々に読まなければならない状況が生じたのだ。
吉岡忍さんがTV局ドキュメントの取材と、小説創作のために5月2週に女川・石巻に行く。私にも声がかかり、同行することになった。
さらに日程を一日早めて、「石巻の沖合の島に行ったことがないから、どう?」と吉岡さんから電話があった。
翌3週は、私自身は気仙沼大島に取材に出かける。大津波の被災から一年後のふたつの島の対比が、この目でできる良い機会だし、私は興味をもって承諾した。
現地ではおおかた別行動で、夜は合流し同宿で、飲んで語る、というパターンになるだろう。そうなると、せめて吉岡忍『老人と牛』くらいは読んでおかないと話にならない。同書をひろげた。胸にジーンときた。出久根達郎『葉っぱ』も読むと、これもいい。
先般、葛飾・京成の路地裏で飲んだ、轡田隆史『小さな勇気と覚悟を』も、ジャーナリスト魂を感じさせられた。親しい作家、顔見知り、面識ていどの物書きたちと読み進んだ。新津きよみ、下重暁子、西木正明、中村敦夫、、落合恵子、高橋千劔破、山田健太、……、(敬称略)。
どれもコマーシャルイズムでなく、信念で書いている。
日本人は広島・長崎の被ばくを経験し、第五福竜丸事件、さらにはチェルノブイリ原発事故の怖さを知りながらも、原発拡大に歯止めを持たず、安全神話で進んできて、フクシマ原発事故を起こしてしまった。
どの作家も現代、将来に向けた警告を綴っている。ある意味で、人間とは何か、と考えさせられる。
これは書評でなく、多くの人に読んでもらった方がよいと考え、推薦図書として、ここに記載することに決めました。