大震災の名作にチャレンジしよう=第49回・元気100エッセイ教室
「東日本大震災」の烈震と大津波は、TV映像を通して、世界中の誰もが強烈な印象を受けました。自然災害に対する人間生活の脆さ。「これでもか、これでもか」と繰り返し報道され、観るほどに、心を痛めました。
大都市・東京でも強震で、多くの都民が恐怖を覚え、帰宅難民となりました。その体験から、数多くの作品が生まれてきています。
それらが私の手元に寄せられています。殆どが距離感がなく、作者の想いが空回りしています。恐怖の感情用語を声高に並べているに過ぎないものです。却って恐怖が響かず、伝わらずです。
TVや新聞の報道と比べて、はるかに見劣りしています。
今後、数年間においてプロ・アマを問わず、「東日本大震災」素材とした、エッセイ、小説の名作品が生まれることでしょう。
今回は「名作が生み出せる可能性」について、レクチャーしました。
映像には災害の迫力があり、新聞記事には掘下げがあります。文学の強みは何でしょうか。「災害時の人間を描く」、という強みです。
大災害に対峙した「人間の何を書くのか」という、徹底した『テーマの絞込み』が大切です。と同時に、『距離感』です。
大災害を体験したり、大事件に遭遇したり、身内の不慮の死に直面したり。そのまま状況を書くと、体験的にただ説明された、「距離感がない作品」になってしまいます。
作者が対象(大災害)を客観的に捉え、突き放して、描写文で展開していけば、「距離感が取れた作品」となります。
「うまい文章だな、的確に言い当てているな」「上手に描いているな」「この作者にしか書けない表現(描写)だな」と高く評価されます。
東日本大震災をどう描くべきでしょうか。大地震がきた瞬間は読み手に最も強いインパクトを与えることでしょう。
どのように読み手を引き込むか。文章表現で、強い求心力を持たせるか。
エッセイならば、その瞬間・2分間を200文字~300文字で、丁寧に、客観視して書くことです。小説ならば、400字詰め原稿用紙に3~4枚におよぶ、情況描写、心理描写を重ね合わせることです。(教室では、3分以上はだめです、と強調しました)
【距離感の取り方、書き方】
①説明文とはなにか
怖かった。激しく揺れた。逃げ出した。建物が倒れそうだ。ありきたりな(月並みな)表現で処されている文章です。
②描写文とは何か
まず時間を止める。その瞬間に目に映った物、耳に聞こえた音、手触り、対象(他の人や動植物)の表情など、ていねいに一行ずつ独自の表現で書いていく文章です。
③怖かった、揺れた、逃げ出した、むしろ書かない方がよい。描写だけ並べておけば、読者は放っておいても理解してくれます。
④多め(2倍くらいの枚数)に書いておいて、重複部分は削り、月並みな言葉はすべて外します。回りくどい表現も刈り取ります。そのような手法で、文書を圧縮し、濃密なものにします。
⑤可能ならば、「地震」「恐怖」という言葉も削った方がよいでしょう。
こうすれば、あなたしか書けない文章、「距離感と緊張感」が生み出されます。そして、地震発生、あるい大津波に襲われた2分以降は、ストーリーとして『人間って、大震災のなかでも、こういう考え、行動があるよな』と展開していくことです。
人間の弱さ、強さ、醜さ、狡さ。それが徹底して掘り下げられ、鋭く描写されたならば、TVや新聞を超えた、心打つ作品になります。後世まで永く読まれ続けていくこでしょう。
(注)エッセイ・小説に共通する、散文の上手な書き方としています