第43回・元気に100エッセイ教室=距離感について
良いエッセイ作品とはなにか。作者と素材の間に距離感があり、テーマが読者の心に深く入っていく。これら作品をいう。
距離感とは何か。教室の30分間講義(エッセイ作法)で、それを取り上げました。
2010年の夏はことのほか雨が少なく、30度以上の厳しい暑さが続いた。メディアは「今年は猛暑」という言葉を連日くり返していた。
受講生は、それら報道表現に影響されたのだろう、提出作品(提出期限は8月24日)には「今年の夏は猛暑だ」という一律的な表現が数多かった。そう書けば、読者には厳しいな暑さが伝わる、理解される、と思い込んでいる節があった。
「猛暑」とはメディアの受け売り、手垢のついた言葉であり、自分の言葉で書かれた体感ではない。作品がひとたび作者の手元を離れると、いつ誰にどのように読まれるかわからない。
真冬に読まれたならば、「今年の夏は猛暑だ」と言うだけでは、実感からほど遠いもの。と同時に、読者にとって、満足な夏の描写になっていないので、疑似体験ができない。
【距離感のある作品を書くコツ】
① 季節の描写は逆の季節を書けば、距離感が生まれます。
読者は、同じ季節に読むとはかぎりません。それを念頭に置いて、真夏には雪降る真冬を素材にしたエッセイを書くことです。春には秋を、秋には春を書く。違った季節を描くと、思いのほか距離感が出てきます。
作者は季節の臨場感を出すために、五感を使った、丁寧な描写に努めるはずです。それが季節感のあるエッセイを書くコツです。
② 出来事、体験から、多少の時間を置いて書くことです。
事件・事故の渦中にあるときは、とかく自分を突き放せず、読者不在になります。 いま書きたくても、少しの間を置き、がまんする。最大のテクニックです。
③ 悪しき事例
・親友を亡くした。弔辞を読んだので、半年後に他人に読ませてみると、わかります。ありきたりな言葉の羅列で、つまらないものです。
・孫を素材にすると、とかく孫はかわいいで、子ども(人間)への批判、鋭い突っ込みがなく、餅が伸びたような作品になりやすい。
・入院中の作品はやたら医療用語が多く、読者不在に陥りやすい。
距離感とは、作者が自分を客観的に見つめる空間です。すると、作者が言いたいこと(テーマ)、考えなどが理解されやすくなります。