A020-小説家

取材こぼれ話、瀬戸の島は雪だった、困ったな=大崎上島・木江

 推理小説を雑誌に連載することになった。この話が年末にあってから、どんな犯罪にするか、と思慮してきた。殺人事件では雑誌の雰囲気に合わない。そこで、二十歳の女性が誘拐された、拉致の犯人を追って、芸予諸島の島々を駆け巡る、という展開にした。

 女性編集長から、「挿絵はイラストしますか、写真しますか」と持ちかけられた。写真にさせてもらった。HPで、『TOKYO美人と東京100ストーリー』を手がけているし、将来は写真小説のジャンルを開拓したい、という気持ちが強いからだ。

 かつて小説が掲載された誌面は、みなイラストの挿絵だった。どれも上手なイラストレーターの方々ばかり。読み手には、作品がこんなふうに伝わるのか、と作者の意図や思いと違ったりして楽しいものである。
 ただ、主人公のイメージがどこか違うな、という違和感があった。写真ならば、筆者の私が作中のイメージで撮影し、みずから表現できるはずだ。


 第1回目の原稿が入稿できた。写真を撮りに大崎上島・木江(きのえ)へと前泊で出向いた。3月9日は朝から雨、そして雪に変った。
「最悪だな。3月に雪とはついてないな」
 雑誌には締切りがある。あらためて出直すには時間がない。ともかく、必要な情景の撮影に入った。はたして、巧くいくのか、と不安がつのる。

 木江港から大長行の連絡船に乗り、横風の強いデッキから島の岬を狙った。雪で岬はかすみ、林は積雪で真っ白になってい。
 小説の第一回は、春の陽光が岬の海面に輝いている、という情景から入っている。
「これでは、写真が使えない、まいったな」
 連絡船で、木江港には昼ころに帰ってきた。街の撮影に入った。

 雨はなおも止まない。造船所の溶接現場は雨で危険だし撮影できない。街の家々は庇(ひさし)からの雨のしぶきだ。……。ストーリーの流れに沿った撮影が実に難しかった。
 映画クルーが雨の日は宿にごろごろ、晴れ間を待つ。だから、撮影費用が高額になると聞いたことがある。なるほどな、と思った。
 島を離れる30分前に、雪雨が一時的に上がった。

  困った挙句の果ての、ラッキーチャンスだった。
 車を頼み、急ぎ撮影して回った。各所では、アングルが決まっているから、次々とシャッターを押す。これで小説に写真が使える、と快かった。

 連絡船の発着場に着いた。乗船券を買い求めていると、竹原行きの高速艇がもはや減速し、船員がロープを持っていた。それにも、間に合った。

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