美人推理作家「新津きよみさんを囲む会」が発足
新津きよみさんは、いまや推理小説作家の第一人者だ。今年は関西テレビ放送開局50周年記念ドラマ:『トライアングル』の原作者としても脚光を浴びた。2、3ヶ月に一度は新作を世に送り出すほど、執筆は超多忙の人気作家だ。当然ながら、読者層も広がっている。
作品の一部にはスーパーマーケットの万引き事件が出てくる。新津さんはかつて近在の店舗で、犯人が捕まる瞬間を目撃したという。
彼女が店を出た瞬間、(保安員に)背後から、呼び止められた。「一瞬ドキッとしました。何で? 私が」と思ったという。ところが、彼女の真横にいた人が万引き犯だったのだ。連行される一部始終を見ていた、新津さんは強烈な印象となり、小説の素材のひとつになった、と打ち明けてくれた。
(左から、古関雅仁さん、新津きよみさん、関根稔さん)
大手スーパーの店舗管理職で、大の新津きよみさんファンがいる。新刊が出るたびに、購読している。関根稔さん、古関雅仁さん、持田重雄さんの3人だ。かれらは常々、「流行作家と生の声で話を聞いてみたい」という願望を持っていた。
3人は日々のスーパー業務で、多種多様な万引きと向かい合う。捕捉(ほそく)した万引き犯の、生活の困窮、盗癖、社会的背景などを知る機会が多い。警察にどのタイミングで出すか。それら判断は実務の一つだ。
推理小説の情報提供者として、新津さんにもメリットあるだろう、と橋渡しをしてみた。彼女の承諾が得られた。
10月27日の夕刻、池袋東口「池袋牧場」のしゃぶしゃぶ・すき焼き専門店で、「新津さんを囲む会」を発足させた。関根さん、古関さん、新津さんの3人は同年齢だったことから、多岐に話が弾んだ。(持田さんは公務で欠席)。
彼女にはドラマ化された作品は多い。連続ドラマ『トライアングル』は、古関さん、関根さんはすべて観つづけてきた。それだけに関心度も高く、新津さんには原本と脚本との違いなどを語ってもらっていた。
25年前の事件の犯人と対決する出演者たち、江口洋介、北大路欣也、堺雅人、広末涼子など各氏の、役者の妙技(演技)へと話題が及んだ。
「池袋牧場」は安価で、時間制でしゃぶしゃぶが食べ放題のコースを選んでいた。むろん、飲み放題コースも。2つのセットだけに、話題も食欲も進む。
新津さんはかつてOL時代に推理作家・故山村正夫さんに学び、やがて作家への道を歩みはじめた。デビュー時代の話題は、ファンには新鮮なものだ。かれらは真剣な眼差しで、聞き入っていた。
古関さんは推理の謎解き、トリックなどの質問を向けた。「10%の犯罪の確率があれば、推理小説は成立できます」と、彼女は執筆の極意をも語っていた。
新津さんの父親は長野県の監察医だった。
「夕食のときでも、父は平然と、その日の変死の状態を語る人でした」と話す。それがいまでは、彼女の推理説小説の奥行きになっているようだ。
この話題から、関根さんは家族に看取られなかった、父親の急死の様子を語る。たがいに打ち溶け合っていた。
古関さんは、昨年の箱根駅伝の優勝校出身だ。今年の後輩の活躍を期待する。穂高を含めて、それぞれ出身大学が同駅伝の常連だけに話が弾んだ。
スポーツの話題から、彼女は北アルプスの麓で育ちながら、登山が苦手だという。
「中学時代、男の体育教師に睨まれていた」
ともつけ加えた。古関さんはテニスが得意だ。熟年のスポーツと健康の関係を語る。
新津さんは積極的に講演活動も行う。群馬県・伊香保の徳富蘆花記念文学館で行われている、日本ペンクラブ共催「蘆花文学サロン」でも、講演を行っている。これらも話題に加わった。
2時間のしゃぶしゃぶで満腹感と満足感、多岐にわたる話題で充実感を得られた、「新津きよみさんを囲む会」だった。ふたりが差し出す本に、新津さんは快くサインをしていた。
『トライアングル』(2008年9月 角川書店)
『私はここにいる、と呟く』(2007年11月 徳間書店)
古関さんがこの2冊にサインをもらう。
『悪女の秘密』(2007年4月 光文社文庫)
『星の見える家』(光文社文庫)
関根さんはサインにニコニコ顔だった。
ふたりは「新津さんのファン」を広げます、と約束した。そして、池袋の喧騒とした街なかで別れた。この日の語らいから、新津さんには新たな着想の作品が生まれるだろうか。