A020-小説家

旭日中綬章の祝賀会は、一人2000円台の居酒屋

 日本ペンクラブは来年9月に、国際ペン東京大会を開催する。25年ぶりの開催となる。昨年の世界フォーラム「災害と文化」をさらに上回る、大型イベントである。テーマは「環境と文化」に決定している。
開催までの一年半にむかって毎月一回、準備委員会が同クラブ大会議室でおこなわれている。
 

 5月12日は、阿刀田高会長、浅田次郎専務理事、西木正明、吉岡忍、高橋千劔破(ちはや)各常務理事、中村敦夫さんなど各委員長および副委員長が集まった。
 今回は「環境と文化」に対する副題とか、国内外へのPR活動、海外作家の招聘などについて討議された。日本を代表する作家たちだけに、副題のことば一つにも、微妙な言い回しにこだわっていた。

 運営面となると、25年前の井上靖会長の下で行われた東京大会がつねに話題にあがる。当時の経験者たちは、記憶をよみがえらせ、それらを参考にしている。と同時に、井上靖会長の大きさが折々に語られている。


 準備委員会が終わると、茅場町の居酒屋・「浜町亭」に流れる。六人掛けテーブルが二つ。詰め込んで13人が座った。それぞれが多様な話題を持ちだす。

 阿刀田高さんが2つのテーブルをかけ持った。双方で、今春の旭日中綬章に対する乾杯の盃を掲げていた。
 こちらの席に移ってきたとき、
「受賞の理由はなんですか?」
 私は聞いてみた。当局からは受賞の理由は何も教えてくれなかったという。「昨年色っぽい小説を書いたから、少子化対策に寄与したからかな?」
 阿刀田さんはブラックユーモアなど「短編の名手」らしく、切り口よく笑わせていた。日本ペンクラブ会長として、文化的な寄与だと思われる。
「打診はあったのですか」
「まったくなく、唐突に話が来ました」
 阿刀田高さんとしては、予想外という口ぶりだった。
       

        (左:阿刀田高さん、右:高橋千劔破)

 阿刀田さんの話を受けて、高橋千劔破さんが、ある打ち明け話を披露した。
「当人に直接の打診をしないで、該当者の周りの人に、勲章は貰ってくれそうですかね、と問い合わせするんですよ。ノーベル賞を受賞した大江健三郎さんは文化勲章を断った。これは打診のしょうがなかった……、というケースでしょうね」
 

「ボクが断ったら、阿刀田はノーベル賞作家のような器じゃない、と批判されるよね」と笑わす。

 阿刀田さんは、勲章を貰った。会員にとっても、おめでたいことだ。次はノーベル賞の祝賀会といきたいものだ。ずいぶん盛り上がったところで、祝賀会はお開き。吉澤事務局長が「きょうはお祝いですから」と阿刀田会長の財布をしまわせた。

 他の参加者はいつも通り、支払いは割り勘。一人3000円でも、お釣りがきた。それは次回の呑み代のくり越し。つまり、2000円台の旭日中綬章の祝賀会となった。
 物書きは売れっ子もいれば、売れずとも貧困でも信念で書き続ける人もいる。安い飲み代は気楽に集まれる、場の提供となる。ありがたい話しだ。

 日本ペンクラブは「言論思想の自由」を護る、という団体。誰もが手弁当のボランティア活動だ。自由に対する意欲の強い作家たち。その飲み会だけに、信念や考えや本音が飛びだす。それだけに、語るほどに、回数を重ねるごとに仲間意識が強まる。

 国際ペン東京大会に向けて、井上靖会長のときと同様に、阿刀田高会長の下においても、大成功させたい、という意欲は共通認識だった。

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