A020-小説家

長編ミステリー『心は翼』は最終回。少女誘拐犯が証拠隠滅を企てた。

『TOKYO美人と、東京100ストーリー』の第3作・『心は翼』が7回の連載で、最終回を迎えた。400字詰め原稿用紙で、約400枚の作品である。
 脱稿したいま、この作品の創作前後にふれてみたい。


【マドンナについて】
 モデルの方々にも、企画に参画してもらって入る。マドンナの名まえとか、職業などを決めてもらう。写真の撮影場所なども。

 書き手としては好きなようにシチュエーションを選べない、ストーリーを好き勝手に運べない、という制約を自分に課すことになる。知らないことが多いと、取材が多くなる。
 他方で、どんな作品が生まれるのか、作者すら予想ができず、未知への創作の楽しさがある。

 写真モデル・森川詩子さんから、マドンナの名まえは「夢子」で、詩人で、ファンタジー小説という希望が出された。ファンタジーは、私にとって新しいジャンルだ。3回連載を想定したうえで、3ヶ所の撮影をおこなった。六義園、旧古河庭園、明治神宮などである。

 撮影後のおいて、変更はいつでも、OKだよ、と森川さんには伝えておいた。「鴫野佐和子・しぎの さわこ」という名の変更があった。佐和子となると、純日本的であり、ファンタジー小説として似合わない。ミステリーに切り替えた。そのうえで、私の得意とする「山岳小説」の土俵で展開することに決めた。


【詩人について】

 詩集は本ものを使いたかった。旧知で、3、40歳代のころともに学んだ、詩人の小林陽子さんにお願いした。いま長崎在住の彼女は、「わたしの詩で、どんな小説ができるのかしら。お手並み拝借」と揶揄もあった。

 作品集が送られてきた。詩の全文を掲載すると、小説が間延びするので、部分抜粋とした。むろん、修正はしないことが条件だ。


【作品のあらすじ】
 蓼科スキー場で、5歳の女の子が誘拐された。所轄の警察署は山岳遭難扱いだった。事件は表に出ないまま、20年の歳月が経つ。時効が成立している。

 元大使の娘で、詩人の鴫野佐和子の記憶から、2週間の軟禁場所は八ヶ岳の主峰を越えた、標高2400メートルの冬季無人の山小屋だった。蓼科からだと、ベテラン登山者でも最低2日間はかかる。雪峰が吹雪けば、さらに日数を要す。犯人はどのように5歳の少女を連れ去ったのか。

 執筆を続ける作者としても、犯人の立場で考えるが、犯行の手口が見えなくなってしまった。
 連載小説は一度書いて掲載したものは、内容やストーリーに辻褄が合わないからといい、さかのぼって修正できない。書き進むほどに制約がつよくなる。執筆するうえで、苦しむ場面が多くなった。

 ミステリー小説である以上、事件が未解決のまま終わらせられない。犯人の糾明、事件の解決は必須だ。
 10日ごとに作品掲載だから、中断はできない。『作者のご都合主義でリアリティーがない、辻褄あわせ』という批判は避けなければならない。厳しい局面に立たされつづけた。


【見えない犯行の打破】
 中篇(100枚~200枚)では処せないと判断した。長編で、しっかり書き込めば、事件解決の道が拓けるはずだ。否、作者としては解決の道がそこにしかないと判断した。森川さんには2度目の撮影をお願いした。そして、7回連載で、事件の解決へと導いたものだ。


【脱稿後の感想】
 写真モデル・森川詩子さんは、作中の鴫野佐和子のイメージが実に合致していた。人物描写の面では楽しく書けた作品だった。


 写真:小石川後楽園の裏門で。写真撮影の合間に、「かわいい、ひょうたん」と森川さんが見つけた、その瞬間のスナップ。

 作品の掲載は『穂高健一ワールド』と、サポーター(蒲池潤氏)のリライト『穂高健一の世界』です。

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