小説講座の指導は、受講者の実践・実作のみでレベルアップを図る
目黒カルチャースクールで、『小説の書き方』の講師をしている。教室では、創作の実践指導のみで、受講生には、A4原稿用紙の升目を埋めてもらっている。あえてパソコンは使わない。原稿用紙に拘泥する。それはキーボードを叩けば、だらだらと文字が連なるからだ。
初期の段階では、「人物の登場のさせ方」を説明し、原稿用紙にむかってもらう。次の講座では主人公の性格、外観、生活などの書き方のポイントを述べる。そして、書き綴る。原稿用紙に向かう受講生には、鉛筆と消しゴムは使わせない。ボールペンだけで書き進む。
世のなかには小説を書きたい人は多くいると思う。実際に書き始めて挫折した人は数え切れないだろう。その理由の大半が、最初から読み直ししたり、手を入れたりするからだ。受講生にはそんな失敗をさせたくない。
「初稿だから、主人公の年齢も、名前も、家族構成も途中で変わってもいい。ストーリーも辻褄が合わなくてもいい。2稿の段階で手直しすればいいんだから。伏線も2稿で張ればいい」と、それを守ってもらい、先へ先へと書き進む。
各地にあるカルチャーセンター小説講座の多くは、提出された小説の批評、添削、それにレクチャーだと思う。私はどこまでも実践にこだわる。
月2回の講座で、一回が2時間。毎回原稿用紙で5枚から7枚ていど書いてもらう。「小説は頭で書かない。頭脳のスクリーナに浮かんだもの、映し出されたもの、それだけを書き取るだけだ」といい、ひたすら書き進めていく。受講生の誰もが一心に、頭に浮かんだものを書き取っていく。集中力が養われていく。
毎回、書き始めて一時間経ったころ、いちど読みあわせをする。「ここらから対立する人物を登場させなさい」と多少の方向を示すこともある。過去の入らない小説は平板で、冗漫になる。「主人公の数年前、十年前をカットバックで挿入しなさい」と一言二言のアドバイスもする。それはいち早く創作のコツや呼吸をつかんでもらいたいからだ。
「きょうは章を変え、主人公と対立する人物の立場、その視点から書いてください」とレクチャーしてから、ペンを執ってもらう。これまで心理描写の書き方、情景描写の書き方、時間の処理の仕方など、基本的な小説技法を積み重ねてきている。
過去には20枚以上書けなかった、という受講生がもう60枚超えている。