GNP1%の軍事費を2%にする。これでは国民に真実が伝わらない
最近は、安倍晋三元首相が言いだした「悪夢の民主党政権」が独り歩きをしている。
「権力を握った者は保守的になる」ということわざ通りで、正義は自分の側にあり、反対勢力を「悪」とするものだ。
これまで、安倍氏が国会などで何度もつかったので、大勢のひとたちの脳裏に「悪夢の民主党政権」ということばが刷り込まれている。
山口県=長州のイメージから、この発言は歴史的によく似た実例がある。
薩長閥の明治政府が、富国強兵策の自分たちを「善」として高々と謳(うた)いあげた。かたや、封建支配の徳川政権を「悪」とした。この近代思想というか、刷り込みによく似ている。
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家康が江戸に幕府を開いてから、徳川政権は海外とはいちども戦争をしなかった。ただ、薩摩藩は薩英戦争、長州藩は4カ国連合艦隊と下関戦争をおこなった。
この薩摩と長州の2回あるのみである。
戊辰戦争で勝利した薩長が、明治に新政権をとった。
かれら薩長閥の政治家たちは、おなじ思想(欧米列強なみの軍事力をもつべきだ)から、台湾出兵、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、太平洋戦争と、その終戦まで10年に一度の海外戦争をおこなってきた。
この間に多くの戦死者をだした。全国の都市・農村部の各家庭はことごとく生活を崩壊させられた。
260年間にわたり戦争をしなかった徳川政権と、77年間にわたる戦争国家の薩長閥支配とどちらが「悪」だったのか。
封建制度はたしかに民主的ではないし、良い制度とはいえない。しかし、庶民にとっては貧しくても、治安は安定していた。
「男は外で威張っているが、家のなかは女房が威張っている」という構図も、庶民感覚らすれば、「悪」ばかりとは言い切れない。
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夫婦仲が悪くて離婚する際、妻がもってきた嫁入り道具、持参金はすべて女房に渡さねばならない。たとえ老婆になっても厳格な封建ルールだった。それは女の権利を保障するものだった。
TVドラマで見るように、「三行半」は男が突き付けるものでなく、「わたし、あなたと離婚して、別の男と再婚するから、三行半を書いてちょうだい」という脅し文句が一般的だった。
結婚して10年も、20年も経てば、持参金も嫁入り道具も生活費として使い切っている。それでも払わないと男が言えば、町奉行所に訴えることができた。
男は借金してでも用立てて、別れる女房に渡さねばならない。こうなると、男はかんたんに別れられないし、女房には頭があがらないものだ。
頭ごなしに江戸時代は「悪」と決めつけなくて、こうした夫婦の視点からみてみると、明治時代からの徴兵制度の下で、「勝ってくるぞと勇ましく、国を出てから」と、女は涙を隠し、夫や息子を外地に送りだした77年とどっちが幸せなのだろうか。
明治時代から昭和中期の我が国は、有能な外交官を育てる教育投資よりも、武勇の将兵を育てる軍事訓練により力を注いできた。
そのツケが、外交による解決でなく、国際連盟だったとか、日独伊三国同盟とか、戦争における解決の道だった。
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もっとさかのぼってみよう。朝鮮半島問題から日清戦争がおきた。遼東半島の三国干渉(ロシア、ドイツ、フランス)で清国に返還する、という立ち位置から日露戦争がおきた。
当時、外交解決をのぞむ政治家もかなりいた。しかし、多くの日本人は熱くなり、清国と戦争だ、ロシアと戦争だと言い、声高に戦争を主張した。新聞がそれを後押しして、海外戦争を導いていった。
戦争の発端は国民の声である。そういう戦争解決の政治家たちを選ぶのは選挙権のある国民である。ここは自覚するべきである。
太平洋戦争の終結から、今年はちょうど77年である。第二次世界大戦後に一度も戦争をせず、軍人(自衛官)がひとりも戦場で死んでいない稀有な日本になった。
いまや、中国・台湾、南シナ海の派遣、尖閣諸島で、きな臭いにおいがする。わたしたちは熱くなりはじめている。自分たち一人ひとりは、戦争に向かっていないか、とつねにじぶんを検証することが大切である。
緊迫した国際状況だから、GNP1%の軍事費を2%にする。さりげなく言われている。これでは国民に真実が伝わらない。
『2020年の日本の軍事費は5.3兆円で世界9位です。今回の選挙で公約として、倍増しにして10兆6千億円にします。将来の付として、税金で負担してもらいます』
堂々と皆にわかりやすく実金額で伝えないと、たった1%かと誤った理解を与えてしまう。
徳川政権のように260年間にわたり、戦争をしない歴史をもった国家だ。
もし5兆円つかうならば、世界に通用する外交官の養成(語学力、リベート力)の教育投資した方が有益ではないか。という意見も出てこよう。
「悪夢の民主党政権」とか、安倍政権・菅政権の踏襲は「悪魔の政権じゃないか」という概念の応酬でなく、国民により真実で正しい用語で政治論争をしてもらいたいものだ。