【孔雀船105号 詩】 夜空の向こう側 脇川郁也
更新日:2025年4月16日
ふり返ると
紫色の空にいくつか星の光が見えた
見晴台から望む街の夜景を眺めながら
あのひとつひとつに
だれかの家庭があるんだねと
あなたはつぶやいた
なだらかな長い坂道を
ふたりで登った
いつの間にか息が上がっていて
そっとつないだ手を引き合って笑った
明かりの数だけある家庭で
暖められる笑い声もあるけれど
時がたつと
あきらかな月の光が
いつの間にか雲にかすんでしまう
知らぬ間に闇が降りてきて
世界を覆ってしまうことがある
どれだけ手を伸ばしてみても
届かないもどかしさに
秋の風はいつも吹き来るのだ
虫が鳴いているね
あれはね、羽を擦り合わせているんだ
恋する人を呼んでいるんだ
でもそれが
哀しげに聞こえるのはなぜだろう
予約したのは
夜景がきれいなレストラン
すこし気取って
ぼくらはワイングラスを傾ける
弾けるようなグラスの音に
見つめ合って笑顔を交わした
夜空の片隅に星が流れた
遠く音もなく
光を点滅させたジェット機が
飛んで行く
ポケットの膨らみは君に贈るプレゼント
どこにも月は見えなかった
【関連情報】
孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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