12月13日、14日と2日間は、PJ仲間の肥田野さんとともに、『真白き富士山を観ながら、冬山登山』というテーマだった。目的のもう一つは、肥田野さんに雪上基礎訓練を授けることだった。
肥田野さんとは春先から丹沢、大菩薩、尾瀬などともにしてきた。この間、地図と磁石の使い方はしっかり指導させてもらた。山に登る人で、9割は地図と磁石は使えない。それが実態だ。肥田野さんにはそんな登山者になってもらいたいので。
登山歴を積み重ねてきた肥田野さんには、今回の登山は冬山だから、ピッケルと6本爪のアイゼンを購入してもらった。やがて真冬の北アルプス、八ヶ岳になれば、さらなる装備が必要だ。(10爪のアイゼンとか、防寒の完全装備とか、テント装備とか)。
今回の最大の目的は、冬山の必須条件のピッケルとアイゼンを使うことに絞り込んでいた。
私は雪山が大好きだとよく語る。山々の樹木は落葉し、見通しがよい。空気が澄んでいる。天気予報もパターン化している。状況が読みやすい。すると、
「冬山は怖い。大丈夫ですか?」と質問される。
「夏山よりも、雪山のほうが安全ですよ」
「えっ」とおどろかれてしまう。
夏山は夕方になれば、雷だ。稜線に入ると、逃げ場がない。これは怖い。岩場での落石は避けきれない。石が散乱銃のように襲い掛かる。一発頭に当たれば即死だ。これは二十歳代のとき、前穂高の岩場で経験した。死を覚悟した。
(人間は死の直前にこんな淋しい気持になるんだな)、という想いが脳裏を横切った。間一髪のところで助かった。落石の恐怖がいまやトラウマになってしまった。
「それに較べ、雪山は転落しても、ピッケルが使えば、即時滑落を停止できる。雪崩のルートを避ければ、安全だよ。夏場とちがって、水の心配がない。雪をバーナーで溶かせば水が作れる」
「そうはいっても怖くないですか。冬は大勢が死んでいる」
「死者が最も多いのは、中高年の夏山登山じゃないかな。次が秋。10月頃は夏山の軽装で登って、雨に打たれ、真冬なみの気温で凍死する。しかし、冬山に登るひとは完全装備。凍傷で死ぬこともない」
「でも、新聞にやTVでみるかぎり、大勢が遭難している」
「一度の事故ると、たしかに大量遭難になってしまう。マスコミにとってはドラマチックな報道ができる。実際のところ、ベテランしか冬山に入らないし、入山比率からしても、遭難の実数は少ないと思う」
こんなやり取りはあっても、冬山は侮れない。夏山よりも緊張感はある。ただ、雷や落石は運を天に任せるだけになるが、ピッケルとアイゼンを使いこなせば、自分の力量で滑落停止もできるし、身を守れる。むろん、地図と磁石はしっかり使いこなせることだ。
今回の登山は予想に反して富士山の周辺の山に、雪がまったくなかった。雪上訓練にもならず、2日目は富士山に登ることに決めた。
五合目までの富士スカイラインは閉鎖。富士吉田からの一合目までの林道ルートも冬季通行止め。片道4キロは舗道をひたすら歩くはめになった。
富士山の6合目半で、やっと雪にめぐり合えた。低気圧の影響で凄まじい突風が吹く。それよりも、タイムアウトで、帰路に着いた。
これらは肥田野さんが記事に書くことになっている。