「山の日」から、地域の活力が生まれる(4)=東京・有楽町
主催者のあいさつとして、磯野剛太事務局長(全国「山の日」フォーラム実行委員会)が、2日間のイベントやシンポジウムの概略を語った。
祝「山の日」は山に親しみ、山の恩恵に感謝するものです。今回のフォーラムは、「山の日」をより知ってもらうためのものです。
日本は海に囲まれた、7割が山の国です。山を通して、地方を創生していく。 現況は、森林の一部荒廃、水資源、里山、川、山の整備など、課題は多くあります。
「山が荒れると、海が荒れる」
それは食生活にも直結してきます。
新たに森を再生していく。みんなでこの取り組みを考えてみましょう。
あした29日(日)は、山の遭難、救助、安全登山をテーマにしたシンポジュウムが行われます。
西栗倉村(にしあわくらそん)は、岡山県にあり、平成の大合併でも、市や町と合併せず、頑張っている村である。
人口は、1530人。同村の上山隆浩さん(産業観光課長)が、遊休の山林対策と、都会の若者を村に呼び込む、斬新な取り組みを語った。
近年は、木材価格の低迷と、山林所有者が村にいなくなり過疎化が進み、森が荒れている。それが全国的な傾向である。
3-50年前に植林した杉、ヒノキの林は、人間の手で作られているから、そのまま放置すると、山が荒れてくる。
無秩序に枝葉が茂り、太陽の光が地面まで届かなくなるからだ。すると、地表が荒れる。森林災害の原因になったりもする。
その対策として、樹を間引きしたり、枝を伐ったりして、地面まで光りを入れてやる。この間伐材(かんばつざい)の作業がとても重要になる。しかしながら、山林所有者が高齢者だったり、村から出て行ってしまったりしているので、森の管理が疎かになってきた。
同村は新たな取り組みとして『百年の森づくり』事業を着実に推し進めている。
登記上だけの山林所有者から、10年間契約で森林を預かる。そのうえで、村の職員が間伐採、あるいは材木を切りだし、販売する。手数料を引いた後の収益は、村と所有者とで50%の分配を行う。
間伐材は一般に品質が悪く、商品価値が低いとされてきた。しかし、若者の眼には、樹木の節目がユニークなデザインに見える。斬新な発想ができる。同村は若者たちの手を借りて、間伐材に付加価値をつけて世に製品として売り出している。
マンションの床板として、板材の節目を組み合わせると、新鮮な床に生まれ変わる。人気だ。若者は玩具にも、目をむける。「東京おもちゃ美術館」とタイアップし、子ども対象のイベントで木製玩具の普及に努める。無印の大型小売店で、ユニークな木工品を展示販売する。
割り箸も拡販していく。割り箸は間伐材の利用だから、森を活性化するのに役立つ。
製品にできない端材は、同村の施設のボイラーの燃料にする。従来の灯油使用量が大幅な減となった。ボイラーマンも、都会からやってきた若者である。
木材に付加価値をつけた商品化は、若者たちを魅了した。現在、51名が同村に移住してきた。
「1530人の人口の村ですから、東京都1200万人に換算すれば、約40万人の人口増加となります」
上山さんは胸を張っていた。
全国には、所有者の不明瞭な森林や休田が数多くある。行政は手が出せない。
「森を有効に生かすためにも、持主は行政などに相談をしてほしい」
と全国に呼びかけた。
新しい森林の創生からしても、これは重要な施策だ。
今井通子さんはかつてマッターホルン、アイガー氷壁に登攀した、国際的な登山家である。982年に、「森林浴」が提唱された。ヒノキチュノールを浴びると、身体の維持になる。そこで、医者の今井さんは、森林セラピー運動を推し進めている。(森林環境を利用して、心身の健康維持、増進、疾病の予防をおこなう)。
「日本人は、山は登るもので、登山は途中で帰るものではない、という考えです。ヨーロッパでは、森林は歩いたり、ベンチを置いて本を読んだり、ひたすら自然と親しむ場所だと考えています」
「森林には、健康、癒(いや)し、機能障害のリハビリなど効果があります。NK細胞(ガンの免疫、インフルエンザになりにくい)が活性化します」
風邪を引いたら、森に行くと良いと言われるゆえんである。
「脳卒中の人が4年間の登山で健康を回復してきました」
と事例を紹介する今井さんは、『森林セラピー基地』づくりを推し進めている。2014年までには、57か所ができた。2015年には60か所の予定である。
健康、観光、経済、環境の4Kを地元民が推し進める。森を整備すれば、環境が良くなる。そのためには、都会人がお金を払う。この循環が大切である、と今井さんは強調した。
川又正人さんは岩手県・盛岡市の林業家である。平成24(2012)年に、神奈川県・山北町から、Uターンした。そして、視覚障害者のための「森の探検隊」の活動を推し進めている。
広葉樹の楢(なら)の森には、ウサギ、カモシカなど動植物がたくさん棲む。「日本メイプル協会」が、海外からの視覚障害者の留学生招いて、森の体験学習を行っている。
全盲の方が樹木や草花などに手で触る。その形状や色合いなど特徴をつかむ。かれらは好奇心が高く、触欲がつよい。
キルギス、ベトナム、マレーシアなどからきた留学生は、雪を見る機会がなかっただけに、雪山は喜ばれます、と語る。
川又さんは、百聞は一蝕に如かずだと喩えた。
森林は広域で、道筋が複雑だから、歩くには方向が必要だから、「私がラジオを鳴らしてあげる。皆さんはそれを頼りについてこられます」と述べた。
盛岡に移り住んだ今、「森の探検隊」の活動はまだささやかであるが、健常者のみならず、心身に障害がある方々のためにも、実績を積み重ねていきたい。
森の整備をして次世代に引き継いでいきたい、と述べた。
パネルディスカッションの座長は、宮林成幸さん(東京農業大学教授)である。森から出て行った動物は人間だけである。暮らしの中で、山や森の話しをする機会はほとんどない。森林は人間の暮らしにプラスになる。
パネラーの発言から、印象深い言葉を拾っていくと、
① 森はしっかり管理して次世代へ適正に引き渡していく必要がある。
② 鹿が野山の緑を食べてしまう。生態系が変わっている。その管理も必要だ。
③ 森で暮らす人は長寿が多い。森はホスピタルな面があるが、都市は自然を失っている。月に2-3回は森に行くことが望ましい。
④ 五感のうち、臭覚だけは脳の記憶回路を通らず、直接、刺激する。すぐさま反応する。
⑤ 杉、ヒノキの人工林は根が土を噛(か)まず、広く張らず、結果として地盤が弱くなる。動物が生きていける広葉樹の森への配慮が必要である。
⑥ 樹と鉄とは同じ表面温度でも、さわれば木の方が温かく感じる。幼児の段階から木にふれる生活環境をつくるのが望ましい。
⑦ 花粉じたいは害ではない。チッソ、硫黄が加わって、人体に悪さをしている。
森づくりは人づくりである、森林化社会に向けた、積極的な活動が必要だと、座長は取りまとめた。