A030-登山家

「山の日」から、地域の活力が生まれる(2)=東京・有楽町

 全国「山の日」フォーラムは、3月28日(土)の午後からシンポジウムが展開された。この日のメインテーマは「山の日」と「地方創生」である。

 冒頭、超党派「山の日」制定議員連盟の 丸川珠代幹事長が、
「日本は7割が山林です。山は美しい景勝もあれば、自然災害も引き起こします。山の恩恵を正しく理解して、水源の環境保全、地域活性化など、将来につなげていきましょう」
 と挨拶された。


 シンポジウムA組は、「山の日」から地域の活力が生まれる。

 松田光輝さん(北海道・知床ネイチャーオフィス代表)は、知床ガイドを職業にしている。
「日本人は物心ついた時から、山があった。身近すぎて、山を考える機会が何かった」と前置きしてから、山がもたらす恩恵について述べた。

 
 ① 山は多様な気象条件を作り出す。
 ② 山は急峻な地形だから、美味しい清流をつくってくれる。
 ③ 山は湿潤な土壌で、森をつくってくれる。

 日本は70%がこうした森林です。

「知床は熊の生息密度が世界的にも最も高いところです。森の栄養素が川から海に流れて、植物性プランクトンが魚の餌となります。大きな魚が知床の川に上ってきます。だから、それは山と海があるから、熊の食料が豊富だからです」
 知床の山に入れば、400メートル四方のどこかに熊がいます。3日間滞在して、熊がみられないと、よほど不運なひとです、と述べた。

 知床ガイドが職業として成り立つまでに、約10年間かかった。
「若い人にはピークハンター(山頂登山)だけでなく、知床に来て、山の魅力、山の豊かさなど認識度を高めていただきたい」
 知床に来てもらえる。そこから地方創生が生まれてくる、と話した。


 中村達さん(日本ロングトレイル協議会代表委員)は、「ロングトレイルのすすめ」について、語った。ロングトライアルとは何か。

「長い距離でつながる山の道を歩きながら、その地域の自然や文化を楽しむ」
 中村さんはスライドを使い、八ヶ岳、白山・白川郷、琵琶湖水源から中央分水嶺、牧場内の80キロにわたるコース、国東半島など、各地に広がるロングトレイルを紹介した。

 アロングトレイルをつくることは宿泊施設、弁当販売など、地域活性化へとつながっていく。JR駅弁までになった事例を紹介した。八ヶ岳では200キロに及ぶロングトレイルもある。学校教育の場としても、取り入れられてきたという。

 本場のアメリカやヨーロッパにおいては数千キロに及びコースがあるという。そこを半年、1年余り、それ以上かけて歩くようだ。海外では、徒歩と自転車が共有している、と写真で紹介した。


 上條敏昭さん(上高地町会長)は、「滞在型利用と外国人の受け入れ」について、一昨年には超党派「山の日」制定議員連盟の方々が、上高地で勉強会を行った。それが成就したは喜ばしいことです、と語った。

 上高地は、道は拡げられないし、通り抜けもできない立地だ。昭和50(1975)年からマイカー規制を行ってきた。平成19(2007)年に安房トンネルが開通した。観光バス規制をしたことから、上高地にくる人の数は減少気味になった。昨年度は127万人で、前年度に比べて92.3%である。

 長野県・白馬村では90軒の宿泊所に対して、30%は外国人経営者である。上高地はその傾向はない。
 外国人の観光客と登山者の比率が増えてきた。5月の連休が終わると、河童橋は外国人ばかり。槍ケ岳に背広姿でくる。あるいは団体日帰りで大勢が来て、マナーが違うので、日本人が敬遠しないか、という危惧はあると話す。

 中高年の登山者ばかりなった時期は、先々どうなるのか、と思い悩んだ。最近は山ガールで、女性が男性を引っ張って来てくれる。
 将来を見据えて、滞在型の利用者を推進していかなければならない。自然の観光だけでは弱い。充実感を与える必要である。地方創生からも、この課題はクリアしなければならない。

 上高地は松本から乗り継ぎが多い。アイガーは100年先を見通してトンネルを掘ったと聞いています。それには3年間議論したらしい。上高地も、地方創生という観点から100年の計で考えなければならない。


 パネルディスカッションに入った。座長は渡邊法子さん(アイ・エス・ケー合同会社代表)は、伊豆の観光協会に携わっている。

「地域の活性化は、景色、歴史、自然だけではダメで、人づくりが大切です。それ自体を地域の人にどう伝えていくか。この点はいかがですか」


「最初はガイドが職業としてみられなかった。知床の自然をみせるのに、金を止めのか、と言われました。しかし、若い人がガイドをやるには食べていけなければ、続かない。精神論だけではダメです。景色だけでなく、動物を見る、星を見る、月を見るツアーを組み立てながら、粘り強く環境をつくり、最近は地元の理解が得られました」
 現在はガイド1人募集すると、50人の応募者が来るようになった、と松田さんは語る。

「学校関係のロングトレイルに、ガイドをつけてくれるようになりました。200キロ一度に回らず、少しずつ歩いて、残りは一生かけて達成すればよい。宿泊者を増やすなら、まずテント場をつくる。やってくる人が増えれば、ホテル、ペンションが増えてくるのです」
 中村さんは長期の視点から相乗効果を語った。

「上高地はガイドの数は増えてきましたが、地域活性化の面ではまだ時間がかかります。11月15日に山を下りる。その制約があるので、6月のお客を増やしたい。梅雨という観念が先行していますが、花が最も美しく咲きほこります」
 上條さんはそこに当座の期待をおいた。

 シンポジウムA組として、座長の渡邊さんは、「子どもは将来の期待につながります。子どもの内から、親子で山や森林に親しめる、あるいは体験できる環境をつくっていく。それが地方創生への道ですね」と導いた。

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