A030-登山家

台風北上で、女峰山の登山は断念。紅葉ハイクに切り替えた

 早朝5時15分。次女(既婚)から電話が入った。「女峰山は止めない」という内容だった。TVの天気予報だと、日本列島の南に停滞する秋雨前線が、台風北上の影響を受けて、午後から大雨だという。 
 こちらはもはや登山服に着替えた後だ。女峰山はアプローチが長く、日帰り9時間の行程で、雨となると、登山歴が4年の娘には厳しいものがある。

「奥日光から、戦場ヶ原でも歩いてみよう。日光行の電車に乗りなよ」と娘を誘い出した。そんなやり取りから、ひと電車遅れた快速に乗った。

 東武日光駅に近づくにしたがって、車窓を濡らす雨は大粒になった。娘はつねに晴れ女だという。ちなみに、こちらは雨男だ。駅前から奥日光の湯元行バスに乗っても、そんな話題が続いた。

 光徳牧場入口では、路面が濡れていなかった。関東地方でも最も北部にあるので、日本の南岸にある、秋雨前線から遠ざかった位置だから、まだ影響を受けていないようだ。

 湯元着が11時ころだった。紅葉が見ごろの湯ノ湖畔を半周した。湖面に映る、鮮やかな紅葉は存分に目を楽しませてくれた。そのうえ、大雨予報から人出がほとんどなく、贅沢に紅葉を独占できた。湖の豊富な水が滝となる、その滝口の木橋を渡った。橋上で硫黄のつよい臭いが鼻を突いた。温泉を予想し、湖水に手を入れてみたが、水温は低かった。

 湯滝は豪快で男性的な水の勢いだ。流れ落ちる滝水が谷間に響く。滝の両側の樹木はやや色付いたていどだ。紅葉と滝のコントラストを狙った写真撮りとなると、最高は来週になるだろう。

 自然林の戦場ヶ原に入った。広葉樹が色付いていた。娘は小学校の時に林間学校で来たけど、記憶に残っていないという。
 昼食のバーナーで湯を沸かすころ、雨がぽつりぽつり降りはじめた。娘は小柄で小食だが、2日後にはフルマラソンに出場するという。狙っているタイムを訊けば、今回は足慣らしだと言う。食事中も、親子の話題はつきない。

 小田代が原に向かった。雨は本降り、傘をさして濡れた木道を進む。鹿の被害から樹木を守るために、柵が張り巡らせている。回転式の扉を押して入ると、視界が開けて草原となった。秋の色合いの絨毯。雨雲が山肌と戯れていた。雲がたなびく、いい情景だった。

 西の湖にむかった。落ち葉がカサカサなる。だれも出会わないが、時おり真っ赤に燃えた広葉樹に出会う。雨が樹木の葉が強くたたき付ける。西ノ湖は樹海に囲まれた神秘な湖だった。山肌が湖面に映る、幻想的な情景に見入った。

 帰路は菖蒲ガ浜で日光行17時29分のバスに乗ることに決めた。ガイドブックの所要時間から判断すれば、急ぎ足、さらには小走りも必要だ。市民ランナーのふたりには、気持ちの余裕があった。いつでも走れる、と。

 西ノ湖から中禅寺湖の千手ガ浜。途中で、日没。そこから菖蒲ガ浜にむかう。中禅寺湖の湖畔ルートは登山道で、小さな起伏がくり返される。汗をかきながらも突き進む。距離と時間を計算し、さらにスピードを上げた。

 日光プリンスホテル前にくると、真っ暗だった。舗装道路を登り、五分前にバス停についた。龍頭ノ滝は見られなかった。

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