A010-ジャーナリスト

社交ダンスは心身を磨く(下)=親がストーカーをつくる時代

 ダンス業界の現況を聞いてみた。
「ダンススクールは『風俗営業法』の枠組みにあるんです。夜12時過ぎて、踊れないんです」。ソシャールダンスは、10年前まで、子どもが教室で学べなかったという。
 日本がいまだ文化の後進国だ、と物語っている事例の一つだ。

 ノーベル賞授賞式でも、天皇が晩餐会でも、それぞれ盛装してダンスを踊る。華やかで高貴なダンスは子供たちのあこがれだろう。
 ソシャールダンスが幼いころに学べなかった。10年前にやっと規制解除がなされた。とはいえ、ダンス教室はいまだ特定団体扱いだ。(警察の許認可・風俗営業法)。こんな国家は世界中でも稀有な存在だろう。
 法律をつくる政治家・官僚の考え方の貧困さであり、「男と女は身体を接触すれば、いかがわしい」とする、頭細胞の固さを反映している。
 日本人として恥ずかしいかぎりだ。

 ダンス教室で、やっと子どもが学ぶことが可能になった。だが、こんどは小学校でフォークダンスをやらなくなった。
「幼いころから男子が女子をリードする。それが社会のあるべき姿です。男の子、女の子、ともに思いやり尊重する心を育てることです」
 全日本チャンピオンになった橘弘子さんは、ダンス教育の大切さを語る。

写真提供:橘ダンススクール


 音楽を聞いたら、身体が自然に動くものだ。
 歩きはじめた幼い子どもたちを観察すれば、音楽が流れると、ごく自然に体を動かしている。これがダンスの原点だ。育つ家庭において、男女が手をつないだり、唄いながら踊ったりすれば、健康的な男女の精神が育つ。

 戦後の学校教育のなかで、ダンスがふつうに学べた時代があった。さらには男女大学生がディスコで踊る世相もあった。男女の間が自然に相手を想う気持が湧いてくる。それが異性を見る目を育てたり、交際になったり、結婚に結びついたりしてきた。

 現代社会は、ストーカー事件がうなぎ上りだ。この陰湿な社会悪は、塾教育が最盛期に育ってきた世代層に多発している。
 女性から発信される、嫌いよ、もう大嫌いよ、という拒否とか拒絶とか、が解らない。怖いから態度で示すが、微妙なことばのニュアンスが正確に読み取れないのだ。
 これは犯人の独善の性格だけでない。諸悪の原因が社会に内在している。

  子どもの人間形成にはなにが重要なのか。親は真剣に考えているのだろうか。小学高学年ともなれば、子どもは夜9時、10時まで学習塾、進学塾へと追い立てられる。親はひたすら「勉強しなさい」と叱咤する。

 幼いころに明るく楽しくダンス、音楽、スポーツも塾年齢になると止めさせてしまう。
 公園遊びで、ごく自然に学べた、子ども道の意思疎通の訓練の場が取り上げられてしまう。そうなればなるほど、男女の価値観の違いも疎くなる。

 皮肉なことに、塾に追い立てる親はコミュニケーション・ギャップの障害者づくりに懸命になっている。
「女性を殺して、自分も死ぬ気だった」
 いつまでも相手の女性に好かれている、と思う自意識過剰だ。

 塾優先、成績優先、偏差値主義で育ってきた、情緒の欠如から生み出されたものだ。男女交際の場でも、自然なコミュニケーションが取れず、悩む。
 30歳にして女性が口説けず、求婚の仕方すらわからない。ダンスのように、女性をうまくそこまでリードできない。結果として、30-50歳代にしてストーカー予備軍になってしまう。
 そんな成人が次々に世に作り出されているのだ。

 社会問題のひとつに老人の孤独死がある。老人とは何十歳からか。当然ながら、年齢ではない。
 第一線からリタイアして「家に閉じこもったまま」その段階からだろう。ならば、つねに戸外に飛び出す。なにかしら学ぶ。目標を持つ。それが健康的な若さだろう。

 阿出川さんを見ていると、80歳代でも、若さそのものだ。ダンスは年齢に関係ない。ダンスはリタイアしてからでも遅くないようだ。
 明るく和やかな雰囲気の下で、男女が顔と身体で向かい合わせて踊る。そこには新鮮な感動がある。心の活性化になると、同スクールの最高年齢の阿出川さんは話す。コミュニケーション不足から起きる老人問題は、かなり改善されるだろう。

 ダンススクールを取材して、社会の欠陥、破たんを考えた。どの年代層でも、男と女が恥ずかしがらずに手をつなぐ。日本でも、そうした風土、習慣ができれば、日本も変わっていくだろう。
『踊りながら、掌(てのひら)と掌を合せれば、心と心のつながりになる』
 カラオケが日本で普及したように、子どもたちから高齢者まで、ダンスが日本社会に広がっていけば、世のなかは良き方向性を示すだろう。

「ダンスの良さは、パートナーに対して、気を使う、頭を使う、身体を使うことです」
 橘弘子さんのことばには、思いやり社会をつくる原点がある。


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写真提供:橘ダンススクール 


問い合わせ先
橘ダンススクール

 〒170-0003
 東京都豊島区駒込3-3-19
 ☎ 03-5394-2229

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