【名物おじさん】下町随一の瓢箪づくり、竹細工づくり(上)=東京・葛飾
葛飾区をつらく平和橋通りから、ふいに脇道をみると、3階建て民家の軒下には、瓢箪(ひようたん)がずらり吊り下がる。極小~超特大まで。表面が多彩な色彩画もあれば、金色もあるし、肌が素のままの瓢箪もある。
「葛飾区内で、ここまで瓢箪に凝っているのは、きっとわたし一人でしょう」
そう話すのは、同区東四ツ木4丁目の村澤義信さん(74)である。地域でも、「ヒョウタンおじさん」で名高いひとだ。
村澤さんは茨城県・内原町(現・水戸市)の出身である。東京に出て農家のハウス栽培の仕事についていた。
15年前から、埼玉県・三郷に30坪の菜園畑を借り、瓢箪作りをはじめている。村澤さんから一連の話を取材させてもらった。
畑には、まず農業用パイプで棚をつくる。(ブドウ棚に似る)。冬場には畑を耕し、肥料を与えておく。タネは春の彼岸に撒(ま)き、秋の彼岸には収穫する。瓢箪の種類(品種)によって、成熟した瓢箪の大きさがちがう、と話す。
7センチ(品種改良品)、15センチ(秀吉・千成)、70-80センチ(通称・大玉)が、村澤家の軒下に吊り下がっている。
『大玉』は高さが約70センチ、腰回りが約1メートルにもなる。その作り方を説明してもらった。
「人間と同じで、さまざまな形があるよ」
1本の蔓(つる)に対して、形のよい瓢箪のみ3ー4個に絞り込む。1-2個だと、栄養分がまわりすぎて、破裂する。(スイカが割れるのに似る)。逆に、数が多いと大玉が小粒になってしまう。
瓢箪の蔓(直径は約5㎝)は太いが、それでも自重15キロが負担となり、落ちてしまう。ひもで吊してやる。葉っぱも大きいから、台風被害が心配になると話す。
高さ15センチの「秀吉」などは間引きの必要がないし、棚にはいくつも吊り下がっている、と教えてくれた。
上質の瓢箪の基準を聞いてみた。
「お尻が真っ平らで、置物にしても、しっかり立っている。あとは腰のくびれの良さですね。まん丸い尻は転がってしまいますから、良質とは言えません」
完成品までの工程を聞いてみた。収穫した重さ約15キロの瓢箪の、上部に2センチほどの穴をあける。2週間ほど水槽につけていると、外部の表皮はすぐにとれる。と同時に、内部の繊維質が腐っている。
「腐敗臭はひどいものです。昔のバキュームカーの側にいる悪臭の不快感に似ています。とても、葛飾の住居地ではできません」
人家のない場所で、瓢箪内部の水洗いをくりかえす。すると、繊維がしぜんに外に流れ出してくれる。種(約2センチ)だけになる。それを取り出せば、ひとまず作業の完了になる。15キロだった大玉が、まさに2指でも楽々と持ちあがる、超軽さになるのだ。
知り合いの画家には、謝礼を出して瓢箪に絵を画いてもらう。村澤さんはみずから漆を塗ったり、お茶の渋で色を付けたりして、最終的な完成品にする。
「りっぱな瓢箪だね、これは売れるよ。よく、そう言われます。だけど、商売にしていません」
村澤さんはどこまでも趣味の領域内に徹し、同じものを量産して売ることで、自分にプレッシャーかけたくないようだ。常に、新たな瓢箪を試みていたいからだ。
ことし(2014年)は6種類の種を植えたよ、と話す。
本ものの瓢箪以外にも、模造品をつくる。知り合いから屋久杉をもらったので、カッターで小粒の瓢箪をつくる。観る人がどこまでも、本ものと見まちがうか。それがいたずら心で楽しいらしい。
じっくり観察すれば、木目があるよ、と村澤さんは現物を指して教えてくれた。