A010-ジャーナリスト

記念講演のタイトルは、「脳を創り、脳を耕す」=日立目白クラブに於いて

「元気に百歳クラブ」(中西成美会長)の秋の例会が、10月10日(木)午後12時から、東京・新宿区の日立目白クラブで開催された。創立記念日と兼ねた、クラブ誌「元気に百歳」(夢工房・A5判278頁 定価1,200円+税)の出版記念を行う。今年は14回記念で、会約70人が参加した。

 記念公演は第1回から外部の著名人を招いている。中西会長から、「会員からも講演をお願いしたい」と私に依頼があった。私は同クラブのエッセイ教室の講師を7年余り受け持っている。

 中西会長との事前の打ち合わせで、「年齢を超えた、柔軟な、若々しい脳を如何につくるか」という内容のすり合わせがあった。「元気に百歳」は、身体も心も脳も活発で、元気で100歳まで生きてこそ値打ちがある、それがモットーである。寝たきりや、植物人間で100歳まで生きるのでなく、元気にが強調されている。そこで、演目は『脳を創り、脳を耕す』(プロ作家がその秘訣を語る)に決まった。

 会場の「日立目白クラブ」は旧宮内省が1928(昭和3)年に学習院高等科の生徒寄宿舎として、建設した。52年に日立製作所が譲り受け、社員の結婚式場などに使っている。建物は白亜の外観である。内部は重厚な作りで、白い壁と縦長のアーチ窓が特徴である。東京都の都選定歴史的建造物である。

『脳を創り、脳を耕す』は固いタイトルだ。笑いを取ってからテーマに入る。スピーチ技法は無視し、いきなり核心から入りことに決めた。
「私は脳の生理学者でもないし、脳細胞の関連知識はなどない」
 と前置きしてから、一般に、加齢とともに、物事にたいして柔軟な対応が弱くなり、従来からの考え方に拘泥し、進歩的なものに批判的になり、保守的になります。頭は固く、頑固で、融通が利かないのが常です。

 作家は一般に年老いても頭が柔らかく、ボケが最も少ない職業だと言われています。(病的なものは除く)。作家は好奇心が強く、物事の本質を突き止めるために、疑ってみるからです。

 事例として殺人事件を出した。

 メディアは殺した人間が悪い、と決めつける。本当にそうだろうか。逆発想で、とらえてみる。

 殺人を犯せば、犯人の家族は路頭に迷う。わが子は学校に行くと、お前の親は人殺しだと罵られ、苛められる。殺人者の実親も、内心は親孝行の良い子がなぜ人殺しをしたのかと思いながらも、「罪深い子です」と頭を下げる。

 殺人者の家族は夜逃げしたり、離散したりする。

 殺人者はそれが解っていながらも、それでも相手を殺す。そこまで追い込んだ、殺された相手は結果として、殺人者の家族の人生をメチャメチャにしているのだ。

 三島由紀夫は、重要な国宝・金閣寺を放火した学僧を主人公にして小説『金閣寺』を書いている。住職を頂点とした僧侶のシステムに欠陥があり、学僧を放火させるまで追い込んだ。学僧だけが本当に悪いのだろうか。
 水上勉も、放火した学僧を主人公にした小説を発表している。ともに描き方として、学僧は決して悪人ではない。

 メディア情報を鵜呑みにせず、興味ある事件は疑ってみる。その大切さから、「海は憎まず」を紹介した。その中の陸前高田市の一本松に触れた。
 7万本の松原で唯一、1本が残り、美化されている。そうだろうか。他の6万9999は折れて槍のように市民を襲いかかる凶器になった。こちらが問題なのに、なぜ報道しないのか。
 3・11直後に、東日本の小中学校のグラウンドに、仮設住宅建設競争をさせたのはメディアである。行政あわてて学校に仮設を作った。いまやそのままである。

 中学生らは野球も、サッカーも、テニスもできず、来春から卒業していく。少子化時代で将来の日本の福祉を支えてくれる若者から、グラウンドを取り上げておいて、福祉国家を支えろ、というのは虫がよ過ぎないか。それらを疑ってみる。

「疑うこと」自体が頭脳を若返らせる。

 高杉晋作は28歳、坂本龍馬は33歳で死んだ。かれらは二十歳ごろから、日本を変えようと必死になった。若者の着想や変革、進歩は素晴らしい。世の中を大きく変えることができる。
 高年齢者は保守的で、「いまの若いものは」という言葉を使う。それを禁句にし、若者から学ぶ姿勢が大切である。

 脳をいかにして耕すか。創作活動は常に頭の中に消しゴムをもっている。小説やエッセイにしても、題名一つ書いたり消したり。本文はなおさら、毎日、頭の中で書いたり決したりしてまとめ上げていく。頭脳を耕すなら、文章の創作活動はお勧めである。それはプロ、アマを問わずである。

 こうした講演は50分間にわたった。


関連情報

クラブ誌「元気に百歳」14号 (夢工房・A5判278頁 定価1,200円+税)

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