A010-ジャーナリスト

特定秘密保護法はほんとうに必要なの? 

 阿部政権がいま推し進める「特定秘密保護法」は、運用によっては暗い日本に逆戻りする、と危惧する。このさき将来を見据えると、肌寒い思いだ。


 ときの権力者はつねに体制の維持に努める。一方で、体制を変えようとする、いろいろな考えや動きが底流で起きてくる。
 体制を維持しようとする側は、さまざまな法律や規制をつくり、現状をかたくなに守ろうとする。その法律を作る人(国会)と、運用する人は当然ながら違う。

 法をつくる目的と、運用する段階の人も違えば、認識も違ってくる。だから、法の解釈は政府の都合よい方向に変わったりする。政府ばかりか、個人の運用がとてつもない方向に進むことがある。


 まず「個人情報保護法」を考えてみたい。メディアが興味半分で政治家たちの私生活を暴露していた。ときには報道の自由を根拠として。政治家たちは頭にきていた。暴露メディアを規制する目的だった。
 政治家が自分たちのためにつくった法律だったから、罰則などない。

 それがいまや個人生活レベルまで下りてきて、学校の同級生名簿、会員名簿作成までも、掲載者の承諾なしで作れば、罪だと思っている人がいる。個人情報保護を口にする人がやたら多い。
 身近な所でも、このように拡大解釈がなされているのだ。

 いま検討されている「特定秘密保護法」は、最高10年の懲役刑だという。

 国家公務員が身内にいる人たちは、逮捕状を持った官憲がいつわが家に押し掛けてこないか、と妙にビクビクする、落ち着かない世のなかになるだろう。
 それはなぜか。情報の漏えいは当人の意識だけでなく、無意識でも起こり得るからだ。

 悪意ある人物(ハッカー)が、公務員のパソコンに侵入し、国の情報を持ち出せばどうなるのか。当然ながら、担当する公務員らにはみずから外部に情報提供をなした、と嫌疑がかけられるはずだ。

 犯罪者扱いされた公務員が、
「身に覚えがありません。そんなことはやっていません」
 と口で弁明しても、
「外部に流れた、証拠は挙がっているんだ」
 と簡単には覆(くつが)えせず、言い訳だと信じてもらえないだろう。
「無実を証明」するのは逆に難しい。

 パソコンによる、えん罪はいつでも起こり得る。
 ここをしっかり押さえておかないと、「特定秘密保護法」が戦前の治安維持法なみに名だる悪法になる可能性がある。


「治安維持法」は、当時の政権が、「国体や私有財産制を否定する運動を取り締まる」として、国家の治安の安定を図ることを目的としていた。法律が制定された以降において、その目的からはるかに逸脱し、政府批判はすべて弾圧の対象となった。

 つまり、思想弾圧に使われたのだ。

 長い年月の中で、「特定秘密」の拡大解釈が進み、公務員のちょっとした外部漏洩すら、この特定秘密保護法に結びつく可能性も否定できない。こうなると、社会への影響は甚大になる。
 
 井伊直弼の「安政の大獄」以上に、治安維持法は獄中死の犠牲者を出した。
 これらは歴史が教える。
 
 法律はできてからでは遅い。悪法も法となるからだ。それを忘れてはならないだろう。

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