被災地の中学生が、カキ養殖体験=温湯駆除法(下)
3.11大津波で、広田湾(陸前高田市ょの海底は掃除されたから、海流もよく、カキ、シュウリ貝、昆布も育ちが良い。だから、温湯駆除で、海中からロープを引き揚げるのが重いという。
「カキよりも、シュウリ貝を売った方がいいよ。そんな冷やかしもあるほど育っています。実際、スーパーに行けば、シュウリ貝は一つ20円で売っている。カキは経費をかけても殻付だと50円。シュウリ貝の粒数も多いし、ただ捨てるのはもったいない……」
同市・米崎カキ養殖業者の大和田晴男さんは笑わす。そのうえで、
「シュウリ貝を取るために、カキを作っているんじゃないし」
日本でも有数のカキを作る、そのプライドで生きている。
カキはロープごと湯のなかに入れられる。
「12、3秒だよ。声を出して数を数えて。時間が来たら、ホイスト(簡易クレーン)のリモコンを押して、湯の中からロープをあげるんだよ」
大和田晴男さんは生徒たちに細かく指導している。
船上の釜からロープが引き上げられると、今度は海に戻す作業だ。マスト軸としたボンブ(アーム)が、船外へと向かられていく。
「下げて、下げて」
カキロープが養殖イカダに引っかけられて海中に戻される。
リモコン作業の生徒たちが順番で変わっていく。
2011年の東日本大震災の大津波で、陸前高田市の養殖イカダがゼロとなる、大打撃を受けた。当然ながら、中学生たちのカキ養殖体験が行われなかった。
同年秋から、漁師たちは杉を使ったイカダづくりを始めた。昨年は約100台作った。漁師の手だけでは間に合わず、ボランテァの協力も多大なものがあったという。それらを沖に係留してきた。
12年は9月中旬までに、170台作る予定ですすんでいる。この過程の中で、中学生専用のイカダもできていた。
米崎中学校の校長が報道記者から質問に応えながら、
「11年は大震災で稚貝・ロープを吊るす体験学習は出来ませんでした。なにしろ、イカダもカキも全滅でした。地元の漁師の方々が根気よく、海岸に打ち上げらていたカキを集めてきて、ネットに入れて海中に吊るしておいてくれたのです。杉イカダができると、ロープ一本ずつ、生徒の名まえのタグをつけて、イカダに吊るしてくれていたのです」
と感謝の念を語っていた。
2年生たちは初めての漁船体験だ。漁船からイカダに乗り移った男子生徒のひとりは、
「予想していたより、揺れなかった。だから、怖いと思わなかった」
と語る。
「祖父さんがホタテの養殖だから、保育園の頃、3-4回乗った」
そう語る生徒もいた。
津波の恐怖が残る生徒は初めから乗船していないので、
「楽しがった」「ワクワクした」
こんな感想が殆んどだった。
同月28日には、名古屋市内の中学生体験学習でやってくる。
「三陸の被災地を忘れてもらいたくない。そういう気持ちもあって、各地からの体験学習を受け入れています」
いまは一台でも多くのイカダを作れば、それだけ生産力がつく。孫の代までも使えるイカダづくりに励んでいる。とくに、夏場は温湯駆除で最も忙しいシーズンだ。体力も使い果たす。
それでも、米崎の大和田さんたち漁師は、貴重な時間を割いて、中学生たちに三陸でカキ養殖を学んでもらう努力を続けている。