書評 週刊「日本の世界遺産03」(富士山が世界遺産になる日)
赤富士が迫力ある表紙「日本の世界遺産」(朝日新聞出版、552円)が、友人の畠堀操八さんから送られてきた。出版社の封書だったので、かれが編集に携わったのかな、と思いながら、芸術的な富士山の写真を拾って見ていた。
素晴らしい富士山の写真に感銘しながらも、「どうしたら、こんな見事な撮影ができるのか」と、撮影シチュエーションなど勉学の心でみていた。
『富士宮ルート』のコーナーでは、66歳から富士登山を始めた登山家・佐々木茂良さんが目に留まった。昨年末の日本山岳会の晩餐会で、富士登山1000回の方が表彰されていた。その方かな、と思ったが、違う。
佐々木さんは秦野市から毎日、富士山に通う。それだけでも大変だし、敬服する。私などとは比べ物にならないが、同じ山を毎日アタックするなど、着想もないし、間違いなく根気も続かない。やり始めても、きっとすぐに他の山に目移りしてしまうだろう。
ページを進めているうちに、『村山古道―忘れられた登山道』が目にとまった。筆者が畠堀さんだった。かれとも一緒に登ったルートだ。
概略を説明すると、平安時代末期から拓かれた、修験道の富士登山道があった。それが最も古い富士山口の村山(静岡県・富士宮市)である。山頂は仏閣を構えた、大日寺だった。当然ながら、村山は表口登山道として栄えてきた。
しかし、仏教徒は明治政府の廃仏毀釈から虐げられた。山頂のみならず、山中からも追い出されたうえ、浅間神社にすり替えられたのだ。他方で、五合目まで新たな登山道できたことから、村山古道は約100年前に廃れてしまった。
最近、村山の人たちや畠堀さんの努力で、村山古道がよみがえった。古道から登れば、世界遺産として十二分に価値がある、自然林などが同氏の筆と写真で紹介されている。
『鑑賞のツボ』のコーナーの「こんな富士山、見たことがありますか?」の写真は、プロ・アマを問わず、カメラ好きには撮影ポイントを知るうえで一見の価値がある。
野口健さん『美しさを取りもどしたマウント・フジ』は説得力のあるエッセイである。かつて「登る山でなく、見る山」、あるいは外国人には「汚い山」といわれた富士山である。山小屋の汚物が垂れ流し、登山者のゴミは散乱し、とても登る気も起きない山だった。
それが快適な富士登山へと変わってきた。現在へのステップが野口さんの視点で書かれている。
富士山の歴史から、生き物図鑑、また噴火するのか、と幅広く取り上げられた、「富士山が世界遺産になる日」に対する、編集者や筆者やカメラマンなどの熱気が伝わってくる良書だ。
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