A010-ジャーナリスト

熊本県の伝統芸能・念仏踊りが銀座で観られた

 12月3日の午後、東京・銀座で所用を済ませてから、品川プリンスホテルで開催される日本山岳会晩餐会に向かった。途中、有楽町駅の手前に差し掛かると、有楽町の特設サテライトスタジオでイベントが行われていた。
 メインタイトル『町イチ!村イチ!2011』(町村から日本を元気にする)で、伝統芸能の踊りを披露していた。大勢の人が足を止めて見学している。

 主催は全国町村会。全国933の町や村のうち、253町村が一堂に集まる物産イベント(東京国際フォーラムなど)である。当地マスコットも約50体が登場する、土、日曜日の2日間のイベントだった。

 午後3時15分になると、三重、四重にも見物人の人囲いのなかで、約20人が太鼓をたたき、踊りを披露した。最年長者は83歳である。
 雨が上がったばかりの銀座で、哀愁を帯びた太鼓がひびく。ここが銀座かと思うほど、静寂だ。東京駅手前で減速する新幹線の車両の音すら聞こえるほどだった。大勢の観衆は最後まで、静かに見入っていた。

 晩餐会があることから長居はできないので、伝統芸能の『上槻木太鼓踊り』というイベントだけを追ってみた。熊本県・多良木(たらぎ)町の松本照彦町長(63)みずからも踊る、というので一層の興味がわいた。

 松本町長に話を聞くと、「熊本・人吉などの踊りは、戦いの太鼓踊りです。そちらとは違い、『上槻木太鼓踊り』はゆっくり静かな太鼓で、念仏踊りです。かつて宮崎県の平家の落人たちが踊っていたものです。山を越え、県境を越えて熊本県に入ってきたのです。いまでは五穀豊穣と、家内安全を願うもの。旧暦のお盆とか、十五夜の踊りです」と説明を受けた。

 

 町の特徴も聞いてみた。特産品は椎茸、タケノコである。「過疎化の町ですが、ブルートレインを3両払下げてもらい、宿泊設備にします」と取り組みを語る。町長が差し出す名刺にも青い列車の写真が載せていた。温泉付きで、一泊3000円。列車マニアには魅力あるものだろう。
 
 同町長には話題を転じて、九州から見た3.11について聞いてみた。
「これまで災害訓練としては土砂崩れと火災が中心でした。今回からは地震を組みました。先週の日曜日には、住民200人が参加し、車が埋まり、消防団が救助する、という想定でした」と災害大国として他人事でないという、行政の責任者の態度で話されていた。

 静寂な念仏踊りをみながら、日本人が忘れかけている集落一体感が呼び起された。と同時に、3.11の直後から、助け合う、手を差し伸べたいという単一民族の日本人の連帯感と結びつく、なにかしら原点との重なりを見た思いだった。

 同町には『幸福の鐘』が設置されたという。
 年末宝くじでビックな夢を買う。これも一つの期待だろうが、熊本・多良木町で、ブルートレインに泊り、鐘をついて将来の幸せを願う。都会人には、こうした精神的な豊饒さを得る旅も必要かもしれない。

 踊り終えた、にこやかな松本町長から、人柄の良さを感じた。きっと素敵な町だろう。九州取材の折には、同町にぜひ足を運んでみたいものだ。

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