瀬戸内海・『祝島』の原発反対運動=ドキュメント映画は何を語る?
日本ペンクラブ・環境委員会の2月研究会は、2月7日午後4時から、同大会議室で、原発建設反対のドキュメント映画『祝島』(ほうりのしま)の上映会を行った。参加者は同会員の約30人である。
1時45分の上映後は、纐纈(はなぶさ)あや監督(36、東京都出身、写真・左)と、中村敦夫さん(俳優、作家・同クラブ環境委員長、写真・右)との対談が行われた。
中国電力は山口県上関町の長島・田ノ浦に原発建設予定地を決めた。ドキュメンタリーの舞台となったのは、対岸4キロの祝島(いわいしま)で人口約500人の離島である。
撮影は08年夏から09年末までの1年10ヶ月で、その準備段階として、彼女は1年間にわたり、一人で祝島に通い、の家々で取材している。
原発建設の賛成派と反対派の激突があり、賛成派が多数で可決する。それは導入の一場面である。
原発建設反対だけのドキュメントではない。カメラは離島の風景、海や自然を大切にしたい、という島民の生活とことばを丁寧に集めている。「海は金で売れない」という島民の姿勢が随所で展開される。
「大切な環境問題に取り組まれた、よいドキュメントです。退屈な時間を守る島民に対して、カメラをまわし続ける。度胸のいる撮影ですね」
映画俳優でもある、中村さんはそう評価する。
「漁師にとって、海は大切な生活資源です。原発を受け入れると、漁業補償金が出ますが、祝島の人たちはそれを拒絶しています。島の経済は海があるから、自然のなかで平等に回っているんです」と女性監督は話す。
鯛釣りの一本釣り漁師(推定70代後半)が、釣り上げる直前、一匹ずつ魚種を言い当てる。まさに海と魚と漁師が一本の釣り糸で一体になっている。
祝島の山は急斜面で空き地がない。巨大な石を積んで石垣をつり、整地し、棚田を作った。
「米があれば、子孫まで食べられる」
持主はそう考える。過疎化が続く島だけに、数代先には棚田は消えてやがて原野に戻る。島民はそれをも受け入れている。春のモミまきから収穫まで、カメラが追う。
新入学生1名の小学校の入学式が行われた。校長の祝辞には、大勢の参列者が感動で涙を流す。たった1人の子どもをも大切にしたい、島民たちの期待がクローズアップされていた。
島には1000年以上の歴史を持つ、4年に1度の大祭・神舞がある。大量旗を掲げた漁船のパレードは迫力がある。と同時に、神舞入船の櫂伝馬では、華やかな衣装と化粧した子どもが、船尾の樽の上で華麗に舞う。
私が現在、隔月誌「島へ。」に、ミステリー小説『海は燃える』を連載している。その舞台である、大崎上島・木江の「十七夜祭」の櫂伝馬行事とそっくりおなじ。ストーリーのなかで、櫂伝馬はつねに出てくるだけに、これには驚かされた。
「日本の原発55基のうち、福井県には11基がある。漁師は原発御殿で暮らす。海で漁をせず、膨大な補償金をもらい、豊かな生活を送っている」
中村さんはその実態を明らかにする。
祝島の老人たちのたまり場は、とある民家の掘り炬燵。語ったり、TVをみたり、大晦日には「蛍の光」を歌う。人生・共同体を感じされてくれる。
しかし、祝島の人々は原発建設が決まってから、反対派と賛成派と心の分断が生じたという。カメラはなおも、それら人間と自然との関わりを追う。
「大都会は人間性や自然も失われた、コンクリート・ジャングルです。競争社会と消費の空間のなかで格好いい、と生きてきて、最後は孤独死である」
中村さんは祝島と比べ、殺伐とした都会を語る。
「人間も自然の一部である」という女性監督の言葉には響くものがあった。
関連情報
『祝いの島』 九段会館大上映会 (九段下駅1分)
上映:映画『祝いの島』
トーク:内山節(哲学者)X纐纈(はなぶさ)あや監督
11年2月13日(日)17時30分開場 18時00分開映
前売1300円 当日1500円