A010-ジャーナリスト

大学教授を早々と辞めた、学友との再会

 大学で、ゼミ長をしていた久能くんと再会した。かれは半官半民の企業から、北陸の某県立大学の経済学教授に赴任していた。短期で見切りをつけ、東京に帰ってきた。話しを聞いて納得できた。

 細君の病気治療が地方で困難だったこと。それもあったが、大学の方針には従えず、『県立』という役人システムにも馴染めず、という理由の一端を語っていた。私なりに理解したのは、『役人の事なかれ主義』それらが久能くんには居たたまれなかったようだ。郷に入ったら郷に従え。そこまでがまんできなかったのが、彼らしい。

 その実、久能くんは私たち夫婦の縁結びだった。彼がゼミ長の権限で、私と彼女(当時は女子大3年生)が交際するように仕向けたのだ。『久能くんがいなかったら、ふたりは結婚していなかった……』という話題が、いまなお夫婦の間で生きているくらいだ。その妻が最寄り駅の待合せの場所に顔をみせた。30分ほど三人は喫茶店で、学生時代の懐かしい話題。やがて、一滴も酒が飲めない妻はわが家に。

 久能くんとは京成立石駅の路地裏に『うちだ』という、下町の匂いたっぷり超安価のモツ煮の呑み屋にはいった。この店は東京郊外から、わざわざ呑みにくるらしい。わが家から徒歩4分、灯台下暗しで、私には縁がなかった。
 ふたりは話題に不自由しないし、存分に語り合った。現況としては、久能くんは国内外の夫婦旅行に明け暮れている。先週は10日間の九州の旅、来週はバンコクだという。『何事もいまのうち』という彼の信条は戴きかな、と思った。

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