東京下町の情緒100景(町工場 021)
二階建ての一階が工場だ。奥から旋盤の音がひびく。職人が油汚れの姿で金属片を削っている。ダライ粉が、面白いようにニョロニョロわき出てくる。
機械は休まず、職人の手も生活のために休まず。旋盤の音は止まらない。
どんな製品ができるのだろうか。それだけでは製品にならず、正確にはなにかしら組み立て部品だろう。出来上がりはきっと極小の部品。職人の腕が競えるミリ単位のものだろう。
東京下町の情緒100景(夕日 020)
晩秋の空の下で、夕日が西に傾いた。浮雲の一つひとつが、茜色の濃淡で、個性豊かな表情をつくる。川向こうの町並みが奥行きをなくした、シルエットを作りはじめた。
手前の川面には、燃える落日の帯が縦長できらめく。此岸まで近寄る。護岸道路を行きかう通行人の顔が、夕日で赤く染まる。
東京下町の情緒100景(檻の中 019)
世の中が荒んできたせいだろうか。下町の児童公園の砂場に、子ども用の鉄製の檻が完成した。罪のない子供を収監するわけでもなさそうだ。
幼子は先刻から砂場で窮屈そうに遊ぶ。砂遊びに飽きても、かんたんには檻の外に出られそうにもない。
東京下町の情緒100景(キロ塚 018)
東京下町の情緒100景(ママと一緒 017)
ふだん私、いつも鍵っ子なの。でもね、土曜の午後は特別な日なの。おもちゃ工場で働くママが、
「お昼は、外で、なにか食べましょ」
と自宅に帰ってきてくれるの。だから、楽しいの。玄関で靴を履いて待っているの。でもね。迷ってしまうの。なに食べようかな、と。
東京下町の情緒100景(孤独 016)
人間は孤独が好きだ。都会の喧騒から逃れたい。学校の成績の重圧から解放されたい。静かな場所がほしい。独り静かに、人生を見つめなおしたい。そう考えない人はいないだろう。
東京下町の情緒100景(路地裏の酒場 015)
私鉄駅前から、脇道に入った路地裏には、モツ煮込み、焼き鳥、大衆酒場、お好み焼き、割烹などが並んでいる。路地から路地へとつづく。
酒飲みにはたまらないほど面白い店が多い。間口は狭いし、奥行きもない。店構えには気取りなどみじんもないし、「はいよ。焼酎ね」と活気ある店員の声にも年季が入っている。まさに庶民の酒場だ。
東京下町の情緒100景(駅前の露店 014)
私鉄駅前の朝の風景が変わってきた。乱雑な放置自転車が撤去されつづけてきた。このところ自転車の数少なくなった。駅前の小さな空いたスペースに自然発生の『市』がたつ。成田方面から来た、行商のおばさんが九時半になると、駅改札から出できて、路上に店を広げる。
東京下町の情緒100景(朝顔 013)
下町に似合う花は何かしら。それは朝顔だろう。そんな夫婦連れの会話が聞こえる。
窓に簾(すだれ)がさがる。朝顔が背伸びし、庇まで這い上がっていく。可憐な紫の花を咲かせる。