A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(098 陽射しの散歩道)

 S字型の護岸には、治水対策で幅広の散策路ができた。下町の情景に似合わず近代的な雰囲気だ。広角の視界がある。ただ総延長は一キロにも満たない。

 十数年の歳月がたつと、違和感も消え、慣れ親しんだ情景になってきた。

 両岸に架かる橋は、下町の裏路地に通じる。人々は町工場や店舗から出かけてきて、日差しを浴びる。幅広い散策道だから、開放感が楽しめる。

 秋になると、水際に一列で並ぶ銀木犀から甘い香りが漂う。『牛乳のような、いい香りね』という会話が聞こえてくる。小粒の花が咲く一枝を、鼻先に引き寄せてみた。香りが全身に心地よく回った。


 初冬の小春日和になった。汗ばむような陽気だ。ウインドーブレーカーを脱いだ。ゆるやかな傾斜面は草むらで、子どもが戯れたり、子犬が駆けたりする。

 気取った犬を連れた人がやってきた。犬の種類はわからない。下町ではまず見かけない上等の犬だ。派手な着衣が胴体に着せられている。

 犬は自然の毛皮を身につけている。暖かな陽射しすらもつよく感じるだろう。『胴体の着衣を脱がせてちょうだい』。犬はどんな啼き声をするのだろうか。

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