東京下町の情緒100景(097 生存競争)
更新日:2007年12月 6日
数年前まで、鳩が橋の欄干に群れていた。街路灯は白いペンキを斑(まだら)に塗ったかのように糞で汚れていた。朝夕にはきまってパン屑とか、ポップコーンとか、鳩に餌をやる人がいた。大半は老人だった。一人身の孤独な生活。その淋しさを紛らわしていたのだろう。
鳩害で困っている住民が、『ハトに餌を与えないでください』と橋の袂に、たて看板を掲げた。鳩にえさをやる老人が消え、鳩が減少した。
カラスが急に多くなった。カラスに餌をやるひとはいない。それでも、カラスは街なかの生ごみを漁っているのか、凄まじい繁殖だった。やがて、都知事の号令で、カラスの駆除が始まった。黒い集団はかなり減ってきた。
川面をのぞくと、大形の鯉がゆうぜんと泳ぐ。30~40匹くらいだろう。朝方、餌をやる人が現れた。欄干を覗き込むだけで、人の気配を察し、鯉が集まるようになった。
カモメが鯉の餌を狙って干潟で待つ。餌まきの人物が現れると、敏捷なカモメが飛来する。空中で、鯉の餌を奪ってしまう。鯉でなく、カモメに餌をやっているかにみえる。
橋の歩道の通行が妨げになるほど、カモメが集まって旋回する。
水中の鯉がおこぼれの餌を待つ。なにかしら鯉が哀れに思えてくる。生存競争の凄まじさをみる思いだ。
そのうち、カモメ公害で、餌まき人と住民の争いがはじまるだろう。