東京下町の情緒100景(083 祭りの準備)
更新日:2007年9月15日
槌音が早朝からひびいていた。とび職がやぐらを組み立てていた。
下町の秋祭りがきょうから始まる。
槌音で呼ばれたかのように、町会の世話役が集まってきた。「きょう、あしたは天気に恵まれそうだね」という挨拶が交わされた。各班ごとに散っていく。それぞれが分担された持ち場で働きはじめた。
神社の格納庫からは、金箔が光る神輿がおごそかに取り出された。子ども神輿だ。テントまで運ばれた神輿は、脚立の上にていねいに置かれた。
午後から、二つの神輿が稚児たちとともに町内の路地をねり歩く。
本殿では、背の高い男性が竹箒を手にして背伸びしながら、天井や軒下をすす払いしている。上向きの仕事は体力がいるものだ。それぞれの顔には汗がにじみ出ている。
かれらは一通りの清掃が終わると、こんどは純白の太いしめ飾りを取り付けはじめた。すると、神社全体に威厳が出てきた。
年配女性たちが境内の掃き掃除をはじめた。神殿の裏手にまで回り、雑草の刈り込みをする。だれもが己の心を磨くように、塵やごみの一つも見逃さない。さらには掃き清める。
やぐらが境内の中央に完成した。格納庫からはダンボールが運び出された。『奉納』の提灯の取り付けだ。電球付のロープが四方に伸ばされていく。長さが調節された。
四方が均一でなければ、後あとが見苦しい提灯の行列になってしまう。長老が豊かな経験で取り仕切っていた。
午後から主役となる子どもたちが目を輝かせて、境内にのぞきに来た。