東京下町の情緒100景(075 太陽)
更新日:2007年8月12日
朝の陽がかなたの水平の雲帯を燃やす。下町の神社の境内が明るくなってきた。掃き掃除をする人、境内を通勤の道にする人。それぞれが声をかけていく。
太陽が境内の樹木の枝葉に絡みながら、強い彩色で昇ってくる。射す陽光は眩しく、威厳に満ちていた。ご来光の太陽、輝く太陽、だれもが素直に手を合わせる。
太陽は躍動とか、明るさとか、明日への期待とか、さまざまな祈りと結びつく。万物共通のものを感じる。古代人の遺跡を発掘すれば、「太陽」が何らかの形で描かれたり、信仰のシンボルとなったりしている。
あらゆる生物の生命の源。それなのに、太陽はわずか一つ。太陽を中核におく宗教は世界中に無数ある。太陽を否定した宗教は聞かない。
民族の数以上、人間の心の数だけ、宗教があるかも知れない。他方で、宗教にはつねに対立がつきまとう。一つの太陽を独り占めにできないのに、宗教戦争まで起きている。そんな想いにとらわれる。
太陽が神社の森を越えてしまう。下町っ子の心は雑然とした街の日常生活にもどっていく。太陽とか宗教とかの存在すらも忘れてしまう。
燃える夕日が境内のかなたで燃えるころ、下町っ子はふたたび太陽を意識する。手を合わせなくても、心のなかで、「太陽」をむかって祈っている。だれもが明日も輝いてほしいと願いながら。