東京下町の情緒100景(072 やぐら太鼓)
更新日:2007年7月28日
駅前アーケード街には、浴衣姿の男女が歩く。浴衣の帯に団扇を差す、粋な姐さんもいれば、長老の姿もあった。
路地からは太鼓の音が流れてきた。下町っ子の心にひびく、『東京音頭』だ。誰もが浮き浮き顔だ。
リズミカルな曲に誘われて、路地に入ってみた。映画館の跡地が小さな公園。ゲートには『納涼大会』。中央の高い櫓からは四方に提灯が吊り下がる。寄付した店の屋号が一つひとつ光を放つ。大きな商店街だけに、その数が多い。
やぐら太鼓の音が勇ましい。男女が二組で叩く。民謡や音頭がくり返し流れる。
浴衣姿の踊り手はしなやかな手つきで、足さばきも軽やかだ。ふだん着姿の男女は真似て踊る。上手、下手は関係なく、やぐら回りを取り囲む。円が回る。だれもが楽しげだ。遠巻きの見物人たちも、浮かれて輪に加わってくる。円が大きく二重になった。
子どもらは興奮ぎみに公園の周辺を駆け回る。裸電球の屋台は納涼大会の情緒をかもしだす。下町っ子は縁日慣れしている。手にした小遣いで、あれこれ品選びしている。幼い子を連れた父親がのぞき込む。
曲と太鼓のリズムが変わった。